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研究最前線 2022年8月12日

父親マウスを子育てに駆り立てるもの

男性の育児休暇取得を推進する法改正など、近年、育児に関わる父親像が大きく変化しています。ヒトと同じ哺乳類のマウスは、父親になると子育てをするようになります。雄を養育行動(子育て)に駆り立てるのは何か。宮道和成チームリーダー(TL)らは、脳の神経回路の構造や機能の研究からそのメカニズムを明らかにしました。

宮道 和成の写真

宮道 和成(ミヤミチ・カズナリ)

生命機能科学研究センター
比較コネクトミクス研究チーム
チームリーダー

何が父親マウスの行動を変えるのか

養育行動は多くの動物に見られ、子孫を残すために重要な行動だ。マウスでは、交尾経験のない若い雄は子どもに攻撃的だが、交尾後、雌と同居すると子どもに対する攻撃性がなくなり、さらに父親になると子どもを集めて巣に戻したり、温めたりするなど子育てを始める。行動が変わるということは、子どもに対する行動をつかさどる神経回路が脳にあり、そこに変化が起こっているはずだ。

研究チームは、脳の視床下部室傍核という部分にあるオキシトシン神経細胞に注目した。「この細胞で合成されるホルモンの一種、オキシトシンは、雌では出産や授乳などに関わることが知られていますが、雄の養育行動にどのように関わるか、その機能は分かっていませんでした」と宮道TL。

養育行動の鍵はオキシトシン

研究チームは、新たに視床下部室傍核のオキシトシン神経細胞が機能しないようにしたマウスの作成に成功。このマウスを観察した結果、父親になっても子どもを無視し、子育てをしなかった。

一方、交尾を経験していない雄のオキシトシン神経細胞を人工的に活性化させたところ、子どもを攻撃せず、養育行動をとるようになった。これにより、雄の養育行動にはオキシトシンが大きく関わってることがはっきりしたのだ。

さらに、脳の神経回路の構造や神経伝達強度を解析した結果、「交尾からパートナーの出産までの間に、雄マウスの脳内でオキシトシン神経細胞が活性化しやすくなるような神経回路の変化が起きることが分かったのです」と宮道TLは説明する。

オキシトシンを介した雄マウスの養育行動の図

図1 オキシトシンを介した雄マウスの養育行動

父親となったマウスの脳では、オキシトシン神経細胞への神経入力の変化が生じる。それにより、オキシトシン神経細胞が活性化される。この活性化が、父親の養育行動を促進する。

神経回路の変化を明らかに

「神経細胞は形がきれいですよね」とほほ笑む宮道TLは、一度つくられるとあまり変化しないと言われてきた大人の脳が、さまざまな状況下でどのくらい柔軟に変化するか、ずっと興味を持ってきたという。「私も父親なので、他人事ではない研究をしているという認識があります。ライフステージの変化に伴って起こる、社会行動をつかさどる神経回路の変化を明らかにしたいのです。今回の成果もその一環。まだ動物実験の段階ですが、ヒトでの理解につながるよう研究を進めていきたいですね」

(取材・構成:佐藤成美/撮影:大島拓也/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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