理研には、国際的に活躍する研究者の育成を目指し、若手研究者が自ら設定した研究課題を自由な発想で主体的に研究できる「基礎科学特別研究員制度」があります。1989年に始まったこの制度は、現在公募中の2024年度採用で35回目となります。これを機に、各分野で活躍する先輩たちと現役にインタビューしました。第1回は、東京農業大学 総合研究所の篠崎 和子 教授です。
篠崎 和子(シノザキ・カズコ)
東京農業大学 総合研究所 教授
東京大学 名誉教授
1989年10月~1992年9月 基礎科学特別研究員
──基礎科学特別研究員(基礎特研)の1期生なのですね。
1989年の春にニューヨークのロックフェラー大学での留学を終えて帰国し、ある研究所の職に就くことになりました。しかし、そこでは自分のやりたい研究ができないことが分かり、どうしようかと悩んでいたんです。そんなとき、理研で新しい制度が始まると知って、応募しました。
──当時はどんな研究をされていたのですか。
植物ホルモンの一種「アブシシン酸(ABA)」の研究です。植物は、乾燥などのストレスがかかると体内でABAをつくり出します。ABAができると、ストレス耐性に関連する遺伝子が働きだします。その仕組みを突き止めようとしていました。留学中には答えが出なかったので、日本で研究の続きをどうしてもやりたかったんです。
そのころの日本には、いわゆるポスドクとして研究を続ける制度がありませんでした。大学の助手や、研究機関に研究員として就職しないと、研究者にはなれない時代だったのです。帰国したときに、ちょうど理研の新制度ができたのはラッキーでしたね。
──基礎特研だったころはどんな研究をしていたのですか。
ABA以外にもストレス耐性の遺伝子を働かせる仕組みが存在することを発見しました。それを報告した論文はこれまでに2,000回以上引用されています。教科書に載るような仕事ができたと自負しています。
理研を出た後は、国際農林水産業研究センターや東京大学で、引き続き植物のストレス耐性に関する研究を続けました。理研は基礎研究分野の仕事が認められるところですし、施設が充実していて、周りに優秀な研究者も多くいます。研究環境がとても良いですね。
──基礎特研として過ごした時間はどんな時間でしたか。
3年はあっという間でした。ストレス耐性に関する発見はできましたが、それが論文として世に出たのは任期終了後でした。論文が出るのには時間がかかることもあり、基礎特研になって2年たった頃から、自分はこの後も研究者を続けていけるだろうかと、すごく不安になったことを今でもよく覚えています。
若い科学者を育てるためにも、さらに良い制度に発展させてほしいですね。例えば、若手研究者が長期的視野をもって研究を続行できるような仕組みを整えれば、優秀な若い研究者が将来に希望を持って研究に没頭でき、素晴らしいことだと思います。
──基礎特研を目指している若手研究者にメッセージをお願いします。
基礎研究は社会を支える大事な仕事です。そして、自分のやりたい研究ができる研究者は、とても魅力的な仕事だと思います。基礎特研はPI(研究主宰者)となるための武者修行だと思いますよ。がんばってください。
(取材・構成:福田 伊佐央/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)
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※登録フォーム締切は4月6日まで。
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