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特集 2023年3月15日

基礎科学特別研究員インタビュー② 38歳でたどり着いた数学者としての大きな第一歩

理研には、国際的に活躍する研究者の育成を目指し、若手研究者が自ら設定した研究課題を自由な発想で主体的に研究できる「基礎科学特別研究員制度」があります。1989年に始まったこの制度は、現在公募中の2024年度採用で35回目となります。これを機に、各分野で活躍する先輩たちと現役にインタビューしました。第2回は、数理創造プログラム(iTHEMS)の佐野 岳人 基礎科学特別研究員です。

佐野 岳人の写真

佐野 岳人(サノ・タケト)

数理創造プログラム
2022年4月~基礎科学特別研究員

──東京大学 理学部 数学科を卒業後、9年間ソフトウエアエンジニアとして勤務。その後、31歳で同大学大学院 理科学研究科 修士課程に進まれ、2022年3月に博士課程を修了されたそうですね。

現在は、数学者として数学の一分野である「トポロジー(位相幾何学)」の中でも4次元以下の多様体を扱う「低次元トポロジー」を専門としていますが、実は学部3、4年生の頃、一度数学に挫折しています。その頃、中学時代の先輩に誘われて未踏ソフトウエア創造事業に応募して採用されたことから、大学院には進まずに先輩たちとソフトウエア会社を起業しました。設立から約5年後、会社は株式会社MIXIに買収され、その後私は2013年にヤフー株式会社に転職しました。

その頃は人工知能が盛り上がり始めた時期で、プログラマーの数学に対する課題意識が高まっていたことから、学生時代に数学を専攻していた私は、プログラマー向けの数学の勉強会を開催するようになりました。それを続けるうちに「大学院でもう一度、数学に挑戦したい」と思うようになり、3カ月間の猛勉強の上、再び受験して合格することができました。もともと修士課程修了後は会社に戻る予定でしたが、3年間の修士課程での研究を通してもっと研究を深めたいと考えるようになり、続けて博士課程に進みました。

現在、研究している「コバノフホモロジー理論」は修士課程のときに指導教員に勧められたテーマで、特徴はコンピュータを使って計算できること。ここで、自分の得意なプログラミングと以前から興味があったトポロジーが初めて結びつきました。修士課程で、純粋数学においてもプログラミング技術は有用であると知り、博士課程ではもっとそのスキルを生かして研究を深めたいという思いもありました。

──その後、基礎科学特別研究員に応募した理由を聞かせて下さい。

興味を持ったのは大学院の研究室のポスドク研究員2人がともにiTHEMS出身者だったことです。iTHEMSは、数理科学を中心に、分野横断的に研究を進めていくことを掲げていたので、他分野の研究者との交流にも期待しました。見学に行ったところ、雰囲気がすごく明るく、ぜひ一員になりたいと思い応募したのです。今は、自分がやりたい研究を伸び伸びとやらせてもらえる研究環境にとても満足しています。

──基礎科学特別研究員を目指している若手研究者にメッセージをお願いします。

あえて研究者になるかどうか悩んでいる人に言葉を贈りたいと思います。将来がなかなか安定しない研究職は不安も多いと思います。私自身、紆余曲折の末、ようやく数学者としての第一歩を踏み出しました。今では、エンジニア時代の経験が数学者としての強みになっています。もし研究の道に進むことに迷いがあれば、違う道も試しながらチャンスやタイミングが訪れるのを待つのも一つの選択肢としてあって良いと思います。

(取材・構成:山田 久美/撮影:古末 拓也/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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