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特集 2023年3月20日

基礎科学特別研究員インタビュー③ 研究に専念できるパラダイス

理研には、国際的に活躍する研究者の育成を目指し、若手研究者が自ら設定した研究課題を自由な発想で主体的に研究できる「基礎科学特別研究員制度」があります。1989年に始まったこの制度は、現在公募中の2024年度採用で35回目となります。これを機に、各分野で活躍する先輩たちと現役にインタビューしました。第3回は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の笠井 康子 上席研究員です。

笠井 康子の写真

笠井 康子(カサイ・ヤスコ)

国立研究開発法人 情報通信研究機構 上席研究員
内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局 上席政策調査員
1995年10月~1997年12月 基礎科学特別研究員

──現在はどのような研究をされているのですか。

地球や惑星を探査するリモートセンシング研究を推進しています。その中の一つ、月探査プロジェクト「TSUKIMI」では、超小型衛星からテラヘルツ波と呼ばれる電磁波を使って月の水資源マップをつくることに挑戦しています。水は宇宙における貴重なエネルギー資源です。月の表面から数十cmの浅い地下(サブサーフェス)には水が存在している可能性があり、光では表面しか観測できませんが、テラヘルツ波を使うことでサブサーフェスの様子を調べることができます。

地球観測衛星データを用いたAI/データサイエンス研究にも取り組んでいます。世界では、大気汚染で亡くなる人は交通事故で亡くなる人より5倍程度多いのです。大気汚染に関する世界的標準となる指標、といった新たな価値の創造に挑戦しています。

また研究のほか、内閣府の科学技術・イノベーション推進事務局 上席政策調査員として科学技術政策における制度設計などの仕事や、東京大学大学院 工学研究科と筑波大学大学院 数理物質科学研究科の客員教授もしています。

──東京工業大学大学院 博士課程では電波天文学を研究されたそうですね。テラヘルツ波による月の資源探査はその研究の延長線上にあるのでしょうか。

はい。博士課程のときは長野県にある国立天文台の野辺山宇宙電波望遠鏡を用いて、暗黒星雲中に存在する分子を分子分光という手法で探索していました。博士課程修了後は、理研の基礎科学特別研究員(基礎特研)として、超伝導液体ヘリウム中の分子分光を行いました。その後、1999年に郵政省通信総合研究所(現NICT)の研究員になりテラヘルツ波を使って宇宙から地球の大気を観測するプロジェクト「SMILES」にお誘いいただきました。SMILESは国際宇宙ステーションに観測装置を設置し、大気中のわずかな分子の動きを分子分光学的に調べ、オゾン層破壊などの気候変動の理解に役立てようというものです。

──基礎特研になって良かった点を聞かせて下さい。

研究環境の良さですね。若手研究者を十分な給与と研究費で待遇し、思う存分活躍してもらうことを掲げていましたが、まさに研究者になりたての私にとっては、雑務に追われることなく研究に専念できるパラダイスでした。理研にはさまざまな分野の研究者がいます。自分の専門分野外の研究者との交流も大きな財産になりました。

──基礎特研を目指している若手研究者にメッセージをお願いします。

理研は数理科学や量子コンピュータなど、その時代に合致した、エッジの効いた研究分野をうまく取り入れていると感じています。若手研究者の皆さんにはそういった最先端の研究環境に身を置いて大いに刺激を受けてほしいですね。

(取材・構成:山田 久美/撮影:相澤 正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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