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研究最前線 2024年3月13日

二つの「ジョセフソン接合」をつなげてみたら…?

松尾 貞茂 研究員らの国際共同研究グループは、量子コンピュータの演算素子などに使われている「ジョセフソン接合」に関わる、ユニークな超伝導物理を研究しています。2022年9月には、理論的に予言されていた、ジョセフソン接合同士の接続に関する現象を実験で証明し、新たな素子開発の可能性を開きました。この成功を出発点に「超伝導ダイオード効果」や「異常ジョセフソン効果」といった新たな物理現象の観測にも成功しています。

松尾 貞茂の写真

松尾 貞茂(マツオ・サダシゲ)

創発物性科学研究センター 量子機能システム研究グループ 研究員

超伝導とジョセフソン接合

オランダの物理学者カマリン・オンネスが「超伝導」を発見したのは1911年のこと。超伝導とは、特定の金属や化合物(超伝導体)を冷やしていくと、突然電気抵抗がゼロになる現象だ。電気抵抗がゼロになるのは、通常はばらばらに動き回る電子がペアを組んで移動するからで、この電子のペアを「クーパー対」、クーパー対の流れを「超伝導電流」という。

近年、研究開発が加速している量子コンピュータには超伝導やイオントラップ、光などを利用した回路で量子計算を行うものがある。超伝導の演算素子「超伝導量子ビット」に使われているのが、ナノレベルの微細なデバイスである「ジョセフソン接合」(図1)だ。二つの超伝導体の間に、絶縁体や半導体、あるいは金属の極めて薄い膜を挟んでいる。通常であれば、絶縁体や半導体には超伝導電流は流れないが、ジョセフソン接合では、片側の超伝導体から絶縁体や半導体を通って、反対側の超伝導体に超伝導電流が流れる。超伝導の量子コンピュータはこの現象を量子計算に利用している。また、超高感度磁気センサーなど、新たなデバイスへの応用も進められている。

ジョセフソン接合の図

図1 ジョセフソン接合

二つの超伝導体の間に、超伝導を示さない絶縁体や半導体の極めて薄い膜(1万分の1mm程度)を挟んだ接合。イギリスの物理学者ブライアン・ジョセフソンが、このような接合では絶縁体や半導体に超伝導電流が流れることを発見し、1973年にノーベル物理学賞を受賞している。

異なる状態を引き起こす「コヒーレント結合」とは?

このようなジョセフソン接合同士を極めて近距離に配置したとき、二つのジョセフソン接合の間に相関が生じ、一方のジョセフソン接合を流れる超伝導電流がもう一方の接合に依存する状況が生まれる。このような状態を「『コヒーレント結合』したジョセフソン接合」と呼び、理論物理学者が2019年の論文で予測していた。これは二つの原子が結合して分子を形成する仕組みを例に考えると理解しやすい。単一の原子と分子が全く異なる性質を示すように、コヒーレント結合したジョセフソン接合では、単一の接合とは異なる状態となるのだ。これにより新たな超伝導電流の制御法や素子の開発が期待される。このコヒーレント結合を世界で初めて実験によって証明したのが、松尾 研究員らの研究グループなのだ。

では、実際にどのような回路をつくれば、コヒーレント結合の存在を示せるのか。松尾 研究員らが試みた実証実験は、図2のようなものだ。「前述の論文を読んだ直後に、理研は新型コロナウイルス感染拡大に伴う活動自粛に突入。2カ月ほどは、どのような実験を行えばコヒーレント結合の存在を実証できるか、自宅であれこれ考えていました。自粛期間明けに早速、温めていたアイデアを実行してみたところ、すぐに予想通りの結果が得られたのです。うまくいき過ぎだろう?と最初は半信半疑でした。電子顕微鏡を使って設計通りにデバイスがつくられているかなどを入念に調べた結果、実験内容には誤りがないことを確認し、ようやく自分でもコヒーレント結合の存在を信じることができました」

コヒーレント結合の実証実験の図

図2 コヒーレント結合の実証実験

超伝導体のループ内に存在するジョセフソン接合A(左図の赤い部分)は、超伝導体のループを貫く磁場の大きさによって制御できる。この磁場を使ってAを制御したとき、それに応じて、ジョセフソン接合B(左図の青い部分)を流れる超伝導電流の大きさが変化することが確認されれば、AとBはコヒーレント結合しているといえる。
右の二つの写真は、実際に実験に用いたデバイスの顕微鏡写真。

既存の原理とは異なるデバイスの開発にも期待

2023年8月には、同じく発現が予想されていた「超伝導ダイオード効果」と呼ばれる現象の観測にも成功し、新たなデバイス開発への道を開いた。

超伝導ダイオード効果とは、超伝導体に電流を流したとき、ある方向に流すと電気抵抗がゼロになるが、逆向きに流すと電気抵抗を示す現象だ。「これまで単一のジョセフソン接合では確認されていましたが、この現象を起こすには、強磁性体を使う、強磁場をかけるなどの条件が必要でした。一方、コヒーレントに結合したジョセフソン接合を使えば、一方のジョセフソン接合を非常に弱い磁場で制御するだけで、超伝導ダイオード効果を発現させることができます。それにより、超伝導電流の向きを自在に制御できる新たなデバイスの開発が期待できます」。加えて、2023年12月には、超伝導ダイオード効果と同様に、コヒーレント結合によって発現する「異常ジョセフソン効果」と呼ばれる現象の実証にも成功し、着実な貢献が評価されている。

今後は、コヒーレント結合させるジョセフソン接合の数を増やすことなどによって、新たな超伝導物理の発見と、超伝導デバイスへの応用につなげたい考えだ。「例えば、原子は結合する数が増えるにしたがって全く異なる特性を示します。同様に、より多くのジョセフソン接合が結合することで、未知の物理現象が起こるかもしれない。いったいどのような現象が潜んでいるのか、今からわくわくしています」と松尾 研究員は笑顔を見せた。

(取材・構成:山田 久美/撮影:相澤 正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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