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RIKEN People 2025年8月18日

植物リソースの守り人

バイオリソース研究センター(BRC)実験植物開発室の小林 正智 室長(取材当時、現 品質管理支援ユニット ユニットリーダー)は、85万点を超える植物の種子や遺伝子、培養細胞を管理し、高品質な実験植物リソースの提供に注力しています。

小林 正智の写真

小林 正智(コバヤシ・マサトモ)

バイオリソース研究センター 実験植物開発室 室長(取材当時)

小林 正智 博士は、茨城県つくば市にBRCが設立された2001年春に、実験植物開発室の室長に就任した。立ち上げ時より24年間にわたり小林室長が率いてきたこの研究室は、種子から培養細胞、DNAに至るまで、合計85万点を超える実験植物のリソースを保存し国内外の研究者に提供するユニークな施設へと成長した。

実験植物開発室が保有するリソースの中でも代表的な実験植物「シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)」のコレクションは、世界中の研究者にとって不可欠な研究基盤となっている。現在はシロイヌナズナの種子を筆頭に培養細胞やDNAを含め、研究機関、大学などに向けて年間3,000件ほど提供しており、その約20%は海外からの依頼だ。

「日本の研究者から寄託された系統や、日本固有の野生系統など、BRC独自のリソースも多く保有しています」と小林室長。気候変動による食糧生産への課題に対処するためには、野生種・栽培種を問わず、多様性のある品揃えが重要である。

例えば、日本の主食であるコメ。ジャポニカ米(短粒)やインディカ米(長粒)は一般にもよく知られているが、これらの分類の中にも、高温、低温、干ばつ、病害への耐性が大きく異なる多様な系統が存在する。こうした耐性の違いは、地球温暖化に伴う気候変動下でも生き残れる作物を生み出すための重要なヒントになる。

小林 室長はキャリアの初期、イネの成長や生育に関わるホルモンを研究する生物有機化学分野の研究者として出発し、その後急速に発展する分子生物学との融合に取り組んだ。そして米国留学中に分子生物学におけるシロイヌナズナの強みを知り、研究対象をシロイヌナズナへと移した。シロイヌナズナは実験室内で一年中栽培でき、種子を得るまでの時間も約3か月と、研究の加速に有利な特性を持つからだ。

2001年に自ら率いることになった実験植物開発室は、文科省のナショナルバイオリソースプロジェクト(NBRP)の中核機関として我が国におけるシロイヌナズナリソースの拠点を担うとともに、過去20年にわたりシロイヌナズナ以外のモデル植物リソースの開発にも継続的に取り組んできた。

「欧米の大規模なリソース機関と比べると、我々は規模では劣る」しかし、大規模施設では研究の信頼性と再現性を図るために必要となる品質管理の徹底は難しい。「そこでBRCでは、高品質で信頼できる植物リソースの整備に注力している」

植物リソースが、食糧安全保障や気候変動といった喫緊の研究課題に活用されることは、大きなやりがいになる。「科学は人々の暮らしを豊かにし、持続可能な社会の構築に貢献すべきだと強く信じています」

グローバルな課題に取り組む植物科学は急速に発展している。BRCは研究動向を注視し、将来の植物研究コミュニティに役立つバイオリソースをどのように整備していくか、考え続けなければならない。「私たちの仕事には終わりがないのです」と小林 室長は言う。そして「2024年度末で室長の任期は終わりますが、BRCのバイオリソース事業全般の品質マネジメントシステムを統括する品質管理支援ユニットのリーダーとして、リソースの信頼性向上に引き続き取組んでいきます」と抱負を語った。

無菌培養中の植物培養細胞の図

無菌培養中の植物培養細胞

実験植物開発室は、細胞生物学や細胞工学など幅広い分野で活躍する研究者たちに、多様な植物より生み出された培養細胞リソースも提供している。

2025年6月5日公開 RIKEN People「Curator of experimental plants」より翻訳、再構成

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