2021年1月27日
理化学研究所
BCプラットフォーム
フィンランド国立保健福祉研究所
理研、BCプラットフォーム、フィンランド国立保健福祉研究所
AI技術を用いたCOVID-19高リスク者の高精度予測に関する国際共同研究を開始
理化学研究所(理研)、BCプラットフォーム(スイス)、フィンランド国立保健福祉研究所(THL)は、AI(人工知能)技術を用いて新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の高リスク者を高精度に予測するための国際共同研究をこのたび開始しました。
理研は独自のモデルを用いて、THLが保有するCOVID-19の患者データをBCプラットフォームの統合データプラットフォーム「BC|INSIGHT」上で解析し、COVID-19の症状を予測する手順を開発します。
理研は、これまでに情報幾何学や機械学習のアルゴリズムを用いて、疾患を高精度に層別化する方法を開発してきました。本共同研究を通じて、COVID-19の重症化あるいは重篤化する人を早期に特定することに応用できると期待できます。
THLは、フィンランド全国で見出された検査陽性者の臨床データやサンプルを収集し、COVID-19の進行や、治療後の経過の個人差に影響を与える遺伝的要因の解析などを行う研究プロジェクト「COVIDprog」の司令塔を担っています。BCプラットフォームは「BC|INSIGHT」を用いて、COVIDprogで取得したデータの中から300~1,000名の臨床データを高いセキュリティーで理研が解析できるようにします。
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染に対する感受性と抵抗性は、多数の要因に依存しています。そのなかで中心的な役割を担っているのが自然免疫と獲得免疫の二つの免疫システムです。これらの免疫システムは、BCGなど過去のワクチン接種や他のコロナウイルスへの感染履歴によって修飾されます。消化管免疫も免疫システムの状態に影響を与えることが知られており、過剰な抗生物質の投与によって免疫の状態が悪化する場合があります。高血圧、糖尿病、肥満、循環器系の疾患などの併存症が、呼吸不全の形成と相関していることが観察されていますが、なぜ一部の人で深刻な呼吸不全が生じるのかはまだ十分理解されていません。その一方で、他のコロナウイルスの研究によって、ウイルスの感染プロセスにACE2やTMPRSS2などの遺伝子が関係していることが明らかになっています。本国際共同研究では、表現型や遺伝に関する様々な要因の複雑な相互作用を紐解き、なぜ、どのようにしてCOVID-19が特定の人を死に導くのかを明らかにします。
関係者のコメント
- 理化学研究所 医科学イノベーションハブ推進プログラム
桜田一洋グループディレクター
(健康医療データ多層統合プラットフォーム推進グループ) - 新型コロナウイルスの感染は無症状のウイルスキャリアーから呼吸不全を発症する重篤者まで個人によって異なる臨床症状を示します。このような症状に加えて治療後の経緯は様々な要因によって影響されますが、その要因のすべては明らかにはなっていません。感染のしやすさや症状の深刻さに関する個人差はワクチンを接種した人の間にも表れる可能性があります。理化学研究所ではフェノタイプに基づいて疾患の症状や経緯の個人差を予測する手法を開発してきました。この手法を使って感染前に高リスク者を特定する手順を開発できれば、高リスク者に対して特別な予防を行い、その命を救うことができると考えられます。
- フィンランド国立保健福祉研究所(THL)
マークス・ペローラ教授(Markus Perola)
(COVIDprog研究リーダー) - 私たちはCOVIDprogの豊富な患者データを、理化学研究所の人工知能を用いた解析のためのモデリング技術ならびにBCプラットフォームの安全なデータ管理システムを組み合わせることでCOVID-19の予測手順を開発します。我々の希望は、誰がCOVID-19のリスクを持つのかを確実に知るための洞察を得て、なぜそのようなリスクが生じるのかを分子/遺伝子レベルで理解することで、このパンデミックを生き抜くための支援を最も必要とする人々に社会の資源を割り振ることを可能にすることです。
- BCプラットフォーム
テロ・シルボラ最高経営責任者(Tero Silvola、CEO) - 安全かつ安心できる方法によってデータを体系的に共有する仕組みは人類のCOVID-19に対する戦いに不可欠です。このパンデミックから人々を守るために、理化学研究所とTHLによって進められている新たなデータ駆動型の取り組みに参加できることを我々はうれしく思います。日本とフィンランドの研究者は現在ならびに将来のパンデミックにおいて人々に個別化された最適な予防と治療を提供するための予測手順の開発を目指しています。この研究に必要な高品質のデータを、我々はBC|INSIGHTというプラットフォームを通して提供します。我々は理化学研究所のAIを用いた予測プラットフォームを様々なヘルスケアシステムに組み込むことで、彼らがCOVID-19のパンデミックと戦うのを支援できるのを楽しみにしています。
発表者
理化学研究所
科技ハブ産連本部 医科学イノベーションハブ推進プログラム 健康医療データ多層統合プラットフォーム推進グループ
グループディレクター 桜田 一洋(さくらだ かずひろ)
機関窓口
理化学研究所 広報室 報道担当
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