1. Home
  2. 広報活動
  3. お知らせ
  4. お知らせ 2021

2021年9月24日

理化学研究所
ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社
株式会社JEOL RESONANCE
科学技術振興機構

電気抵抗のない高温超電導接合で2年間の永久電流運転に世界で初めて成功

非常に低い温度に冷やされた物質の電気抵抗がゼロとなる「超電導」現象は、エネルギーロスの小さい送電線やリニアモーターなどへの応用が進められています。「永久電流[1]」は、超電導状態にあるコイルに、外部からの電流供給なしで電気が流れ続ける現象で、これにより発生する強力な磁場を利用したのが核磁気共鳴(NMR)装置[2]です。NMR装置は、外部電源で超電導コイルに電流を供給したのち、コイルを電源から切り離して回路を閉じることで、永久電流運転に移行します。この際、コイル部分の超電導線材だけではなく、スイッチなどの接合部分も超電導状態でなければならないため、「超電導接合[3]」の技術が不可欠です。近年、液体ヘリウム温度(-269℃)で超電導状態になる「低温超電導」に対して、液体窒素温度(-196℃)でも超電導状態になる「高温超電導」の広い実用化が求められています。その中で、高温超電導線材は、液体ヘリウム温度にまで冷やせば、低温超電導線材よりはるかに高い磁場を発生させることができるため、高温超電導線材の超電導接合(高温超電導接合)を使った次世代超高磁場NMR装置の実現が期待されています。しかし、高温超電導線材[4]は脆く取り扱いが難しいため、高温超電導接合には技術的困難が多いのが課題です。

理化学研究所(理研)生命機能科学研究センター機能性超高磁場マグネット技術研究ユニットの柳澤吉紀ユニットリーダー、構造NMR技術研究ユニットの山崎俊夫ユニットリーダー、ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社の斉藤一功取締役/CTO、日本電子株式会社の連結子会社である株式会社JEOL RESONANCEの蜂谷健一リーダー、科学技術振興機構の前田秀明プログラムマネージャーらの共同研究グループは、2018年に、高温超電導接合を実装したNMR装置の開発に世界で初めて成功しました注)。このNMR装置の2日間の磁場変化を観測したところ、理論上はコイルを冷やし続ければ外部電源なしで10万年間も磁場が発生し続ける性能を示し、通常NMR装置に求められる基準をクリアしていました。しかし高温超電導線材を構成する脆い銅酸化物が原子レベルでつながる接合部が、長期間にわたり永久電流を保持できるかは明らかでありませんでした。

今回、共同研究グループは、400メガヘルツ(MHz)[5]の磁場で約2年間絶え間なく永久電流運転し、磁場の精密測定を続け、高温超電導接合が長期間にわたって安定的な永久電流を維持できることをはじめて実証しました。1時間あたりの磁場の変化率は、2018年当時の1時間あたり10億分の1レベルから、時間と共にさらに小さくなり続け、2年目にはわずか1時間あたり300億分の1になりました。これは、電流を供給しなくても300万年も磁場が発生し続けることを示します。

NMR装置は10年以上にわたり永久電流を安定に維持する必要がありますが、これまで高温超電導接合を実装したNMR装置では数日間の永久電流運転の例しかありませんでした。今回の成果で、年単位の永久電流保持に成功したことは、高温超電導接合を実装したNMR装置の実用化に向けて重要な成果であると言えます。

また、高温超電導接合を実装した液体ヘリウムで冷却する超高磁場のNMR装置においては、直流電源から電流を供給し続ける従来方式に比べ、液体ヘリウムの蒸発が1桁以上小さくなります。さらに技術を発展させることで、将来的には、希少で高価な液体ヘリウムを使用しない小型で汎用性の高いNMR装置の開発も可能になります。これらにより、医薬品検査用の定量NMR[6]や、アルツハイマー病発症に関わるアミロイドβペプチド[7]の構造が超微量試料で得られる次世代超高磁場NMRの実現など、汎用化・高性能化による普及拡大が期待できます。共同研究グループは、今回の成果を活かして、現在の世界最高磁場である1.2ギガヘルツGHz[5](28.2テスラ)を超える1.3GHz(30.5テスラ)の超高磁場NMR装置の開発を目指します。

本成果は、科学雑誌『Superconductor Science and Technology』(9月17日付)に掲載されました。

高温超電導接合を実装したNMR装置と2年間の永久電流運転における磁場の変化の図

図 高温超電導接合を実装したNMR装置(左)と2年間の永久電流運転における磁場の変化(右)

NMR信号のピークを記録することで磁場の値を精密に測定した。またタンパク質のNMR測定も可能であることを実証した。

補足説明

  • 1.永久電流
    全てが超電導体でできているコイルに電流を流すと、抵抗がないため半永久的に電流が流れ続ける。この現象を永久電流と呼ぶ。
  • 2.核磁気共鳴(NMR)装置
    磁場中に置かれた原子核の核スピンの共鳴現象により、物質の分子構造の解析や物性の解析を行う装置。分子の相互作用などの情報も得られるため、生命科学、医薬、化学、食品、材料物性といった幅広い分野で利用されている。NMRはNuclear Magnetic Resonanceの略。磁気共鳴画像(MRI)装置でもこの共鳴現象が用いられている。NMR装置では、測定する試料に印加される磁場の強さが、試料内部において安定・均一であることが求められる。
  • 3.超電導接合
    超電導線材のつなぎ目(接合部)でも電気抵抗ゼロで電流を流す技術。酸化物材料を使った高温超電導線材の超電導接合は難しく、長らく不可能ともいわれていたが、近年実現する技術が開発された。今回、住友電気工業らが開発したiGS® (intermediate Grown Superconducting)接合(超電導の微結晶体を接合部で結晶成長させて線材同士を接合する技術)を適用した。
  • 4.高温超電導線材
    銅酸化物高温超電導体を線材にしたもの。主にレアアース(希土類元素)系とビスマス系がある。液体窒素温度においても超電導状態を示し、また、液体ヘリウム温度においては高磁場下でも超電導状態を維持できる。なお、「超電導」と「超伝導」はどちらもsuperconductivityの訳語であり、ここでは超電導に統一した。なお、今回の開発では、住友電気工業製のレアアース系高温超電導線材(SCC®)を使用した。
  • 5.メガヘルツ(MHz)、ギガヘルツ(GHz)
    ヘルツは周波数の単位であり、核磁気共鳴現象においては共鳴周波数を指す。共鳴周波数は磁場強度に比例し、例えば、2.35テスラの磁場において、水素核は100 MHzの周波数で共鳴する。NMR装置では、慣習的に磁場の強さをメガヘルツ(=1,000,000Hz)で表現するが 、近年の高磁場に伴い1,000MHz以上の装置に対してギガヘルツ(GHz)の表現もしばしば用いられる。
  • 6.定量NMR
    物質に含まれる水素核の量を測ることができるNMRの特性を利用した定量法でqNMRとも呼ばれる。医薬、生薬、食品などにおいて、標準品の入手が難しい物質の定量にも適用可能な手法として近年急速に普及している。
  • 7.アミロイドβペプチド
    アミロイドβ前駆体タンパク質からプロテアーゼにより切断されて産生される生理的ペプチド。アルツハイマー病で見られるアミロイド斑の構成成分として発見されたことから、この過剰な蓄積がアルツハイマー病発症の引き金と考えられている。Aβはアミノ酸の長さで種類が分類されており、Aβ1-40、Aβ1-42が同定されており、Aβ1-42が最も神経毒性が高いとして解析が行われてきた。

共同研究グループ

理化学研究所
生命機能科学研究センター
機能性超高磁場マグネット技術研究ユニット
ユニットリーダー 柳澤 吉紀(やなぎさわ よしのり)
技師 朴 任中(ぼく にんちゅう)
基礎科学特別研究員 末富 佑(すえとみ ゆう)
構造NMR技術研究ユニット
ユニットリーダー 山崎 俊夫(やまざき としお)
ライフサイエンス技術基盤研究センター(研究当時)
研修生(研究当時) 上野 健志(うえの たけし)
(上智大学大学院 理工学研究科 理工学専攻 電気・電子工学領域 博士前期課程(研究当時))
研修生(研究当時) 山岸 風摩(やまぎし かざま)
(上智大学大学院 理工学研究科 理工学専攻 電気・電子工学領域 博士前期課程(研究当時))

住友電気工業株式会社 パワーシステム研究開発センター 次世代超電導開発室
主幹 永石 竜起(ながいし たつおき)
主席 大木 康太郎(おおき こうたろう)
主査 山口 高史(やまぐち たかし)

物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点
特命研究員・副拠点長 北口 仁(きたぐち ひとし)

ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社
取締役/CTO 斉藤 一功(さいとう かずよし)
フェロー 濵田 衞(はまだ まもる)
主管部員 吉川 正敏(よしかわ まさとし)
主管部員(研究当時) 三好 康之(みよし やすゆき)

株式会社JEOL RESONANCE 技術部開発グループ第1チーム
リーダー 蜂谷 健一(はちたに けんいち)

東京工業大学 生命理工学院
教授 石井 佳誉(いしい よしたか)
(理化学研究所 生命機能科学研究センター 先端NMR開発・応用研究チーム チームリーダー)

科学技術振興機構 未来社会創造事業 大規模プロジェクト型
プログラムマネージャー 前田 秀明(まえだ ひであき)
(理化学研究所 生命機能科学研究センター 客員主管研究員)

上智大学大学院 理工学研究科 理工学専攻 電気・電子工学領域
教授 高尾 智明(たかお ともあき)

研究支援

本研究は主として科学技術振興機構(JST)の未来社会創造事業 大規模プロジェクト型 エネルギー損失の革新的な低減化につながる高温超電導線材接合技術「高温超電導線材接合技術の超高磁場NMRと鉄道き電線への社会実装(研究代表者:前田秀明)」(JPMJMI17A2)の支援を受けて行われました。また、一部は日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金特別研究員奨励費「1.3GHz NMR装置の実現に向けた高温超伝導マグネット保護技術の構築(研究代表者:末富佑)」(19J11812)の支援を受けて行われました。

原論文情報

  • Y Yanagisawa, R Piao, Y Suetomi, T Yamazaki, K Yamagishi, T Ueno, T Takao, K Ohki, T Yamaguchi, T Nagaishi, H Kitaguchi, Y Miyoshi, M Yoshikawa, M Hamada, K Saito, K Hachitani, Y Ishii and H Maeda, "Development of a persistent-mode NMR magnet with superconducting joints between high-temperature superconductors", Superconductor Science and Technology, 10.1088/1361-6668/ac2120

発表者

理化学研究所
生命機能科学研究センター 機能性超高磁場マグネット技術研究ユニット
ユニットリーダー 柳澤 吉紀(やなぎさわ よしのり)

ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社
取締役/CTO 斉藤 一功(さいとう かずよし)

株式会社JEOL RESONANCE
技術部開発グループ第1チーム
リーダー 蜂谷 健一(はちたに けんいち)

科学技術振興機構
未来社会創造事業 大規模プロジェクト型
プログラムマネージャー 前田 秀明(まえだ ひであき)

JST事業に関すること

科学技術振興機構
未来創造研究開発推進部 庄司 真理子(しょうじ まりこ)
Tel: 03-6272-4004 / Fax: 03-6268-9412
Email: kaikaku_mirai [at] jst.go.jp

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
お問い合わせフォーム

ジャパンスーパーコンダクタテクノロジー株式会社
Tel: 078-992-5720 / Fax: 078-992-5721
Email: saito.kazuyoshi[at]kobelco.com

日本電子株式会社 総務本部 法務広報室
Tel: 042-542-2106 / Fax: 042-546-3353
Email: ir[at]jeol.co.jp

科学技術振興機構 広報課
Tel: 03-5214-8404 / Fax: 03-5214-8432
Email: jstkoho[at]jst.go.jp

※上記の[at]は@に置き換えてください。

Top