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2022年9月30日

理化学研究所

新しい人事施策の導入について

理化学研究所(理研)は世界をリードする研究所として、人類が抱える諸課題に果敢に取り組み、国際的な頭脳循環を通じて日本の信頼を高めると共に、科学技術イノベーションを通じて、日本社会の持続可能な形での発展に貢献することを目指しています。現代の人類が抱える課題は、地球史の時間スケールで検討すべき諸問題から、日々変化する社会が日常的に向きあっている諸問題まで、じつに多様です。理研は、さまざまな分野を包含する高度な専門機関として、それぞれの課題の特質に応じ、各プロジェクトの適切な期限設定の中で集中的に研究に取り組める体制を備えると同時に、不易と流行を調和させる的確な経営判断において全体を運営することが求められています。

さらに理研には、国際的な人材流動(頭脳循環)を通じて優れた研究者・技術者を迎え入れ、育て、次のポストへ送り出す、世界の頭脳循環のポンプとしての使命があります。新たな人類の知の資産を創造するという責務を果たすためには、まさに研究の現場において国際的な頭脳循環が自ずと生じ、優れた研究者が互いに切磋琢磨し競い合う中で、より良いポストを獲得しキャリアを形成していく、そうした動きを促進する人事制度が必要です。

理研では有期雇用制度を、研究所の経営において必要かつ不可欠な人事制度として運用してきました。その必要性、重要性はこれからも変わりません。これまで理研は、科学の顕著な進展に寄りそい、社会の多様な要請に応じ、国が掲げる政策課題に応え、さらに研究者をとりまく社会環境の変化を踏まえて、適切に有期雇用を運用できる制度を定めてきました。時限を設定した多様なプロジェクトに研究者がそれぞれの専門性を発揮して集中的に取り組み、時代が求める課題に対し大きな成果を挙げてきました。そこに参加した人びとの多くがその経験を活かし、その後も研究者として活躍されています。

高い流動性は理研の特質のひとつです。2019年度から2021年度では毎年170名程度が任期を満了し転出しています。その中で、2022年度については、現在の雇用契約の下で380名の職員が2023年3月末に任期満了を迎えます(2022年4月1日時点、※1)。このように、例年と比して任期満了を迎える方が多い状況に対し、研究所内外から職員のキャリアの今後を心配する声が寄せられ、また理研だけでなく日本の研究力全体の低下に繋がることを懸念する報道もなされています。

本年4月に発足した新経営陣は、これを最重要の課題と認識し、直ちに取り組んできました。2022年4月15日には「理化学研究所における研究者等の雇用に関する方向性について」を公表し、「理研に集う人びとが安心して働くことができる、より優れた研究環境を創りだしていくよう不断の努力を続けます」と述べています。また、2022年8月17日には五神真理事長が理研の新しい経営方針として「RIKEN's Vision on the 2030 Horizon」を発表し、その中で「安定性と流動性を両輪とした研究者のキャリアプランを構築する」ことを示しました。

これら新体制での明確なビジョンのもと、理研のすべての職員が、自身の経験と能力を存分に発揮し続けられる環境を具体的に構築すべく、次に掲げる新人事施策を推進します。

  • ※1現在の雇用契約の下で380名の職員が2023年3月末に任期満了を迎えます
    有期雇用を適用する時限付きプロジェクトを担う研究系任期制職員のうち、科技イノベ活性化法(旧:研究開発力強化法)等特例適用者(※2)であり、個々人が担うプロジェクトの時限の到来に伴い、2023年3月31日に雇用契約の更新を行わない形で任期を満了する者は203名(2022年4月1日時点の人数、非常勤職員(※3)の2名を含む)。これに伴い廃止となる42の研究チームに所属する任期制職員177名(2022年4月1日時点の人数、非常勤職員(※3)の50名を含む)も、プロジェクトの時限の到来により任期満了となる。この203名と177名をあわせた380名を、現在の雇用契約の下で2023年3月末に任期満了を迎える職員とした。
  • ※2科技イノベ活性化法(旧:研究開発力強化法)等特例適用者
    科技イノベ活性化法(旧:研究開発力強化法)において定められている、無期転換申込権発生までの期間を5年から10年とする特例の適用者となる研究者等のこと。
    詳細は厚生労働省「無期転換ルールについて」参照。
  • ※3非常勤職員
    週の所定労働時間が37.5時間未満となるパートタイマー等の職員のこと。

新人事施策の概要

  • 1. プロジェクト雇用を基本とした有期雇用制度の進化


    すでに理研で活躍している有期雇用の研究者に対し、現在従事している研究プロジェクトでの期限における任期満了後、別の有期の研究プロジェクトに参画できる機会を提供するため、理研での通算契約期間の上限規制を撤廃します。
    2022年9月21日時点で、理研の研究部門における研究職・技術職の公募は175件公開されています。このように、各研究センターにおいて新たな研究プロジェクト推進を踏まえた公募は随時公開されます。さらには、公開されている公募以外の各センターにおける採用と後述の新プロジェクト「Transformative Research Innovation Platform of RIKEN platforms(TRIP)」における研究職・技術職の採用とをあわせて、今年度と同規模以上に理研が活動できる予算措置がなされることを前提に、200名規模で人材を採用することを見込んでいます。こうした有期雇用ポストの公募に対し、これまでの理研での通算契約期間によらず誰もが応募可能とし、雇用の切れ目なく参画できる道を今年度中に拓きます。また、そのための関連規程等の改正を遅滞なく行います。
    雇用の切れ目なく新たな研究プロジェクトに参画することで、研究者は無期雇用への転換を理研に申し出る権利を獲得する場合があります。理研はこれまで通り、当該プロジェクトに真に必要な者を厳正かつ公平に選考します。それゆえ選考においては、応募者の転換権獲得可能性について勘案いたしません。
    また、数年以内に大きな成果創出が見込まれるといった特段の場合においては、継続任用を理事長が認める特例や、センター長等が認めた場合に個々人の研究プロジェクトの期間を延長する仕組みについて、今年度中に導入致します。
  • 2. 即戦力となる所内人材の積極的な登用


    理研では現在、次期中長期計画となる第5期中長期計画(2025年度~2031年度)に向けた先行的な取り組みとして、理研全体で横断的なプロジェクトである「Transformative Research Innovation Platform of RIKEN platforms(TRIP)」を2023年度から開始すべく、準備を進めています。
    TRIPは、理研の最先端研究プラットフォーム(スーパーコンピュータ、大型放射光施設、バイオリソース事業など)をつなぐとともに、先駆的に研究デジタルトランスフォーメーション(研究DX)を加速・発展させ、社会変革のエンジンを提供しようとする挑戦的なプロジェクトです。TRIPの推進においては、必要な人材を国内外から募るのはもちろんのこと、既に理研で活躍している高度な知識、技能、経験を有する人材にも参画を求めていきます。その一環として、TRIPの核となる「研究DX基盤開発チーム」を2023年4月に設置することとし、そこに参画する専門人材20名程度を所内から募り、選考を進めています。また、上述の通り、研究職・技術職の採用も順次進めていきます。
    更に、本人が希望する場合、理事長直下の技術支援職(テクニカルスタッフ等)または研究支援職(高度研究支援専門職等)として、理研横断的な研究基盤の管理運営や高度化、経済安全保障技術や研究インテグリティへの適切な対応、研究成果の正確かつ分かりやすい発信、国際研究協力の締結や知財マネジメントへの対応など、アカデミアに精通した深い専門知識と理研で体得した技術や経験が必要となるマネジメント業務への挑戦、転身を受け入れます。自身の新たな可能性に挑戦し活躍することを望む理研の人材を、理研の未来につなぐ戦略のもと、理事長直下の即戦力所内人材として、50名規模を想定しつつ積極的に登用する計画です。

今回の新人事施策は、次期中長期計画期間を見据え、すぐに実行が求められる内容にフォーカスしています。当然、これらの人事施策にとどまらず、次期中長期計画に向けた人事制度の改良や新たな制度設計はひき続き検討していきます。具体的な検討を終えたものは、次期中長期計画の開始を待たずに実行に移す所存です。

また、雇用に関する施策だけでなく、外国人や女性研究者支援といったダイバーシティに関する施策の強化、転出前後の研究支援の強化も喫緊の課題です。キャリアコンサルティングや面接指導、セミナーの積極的な実施はもちろんのこと、例えば、他機関に転出し理研での研究成果を拡張していく研究者が、卓越した新たな研究成果を創出できるよう、転出時の研究財源の支援などを、転出先研究機関と連携して設計していくことが必要と考えています。こうした取り組みを国内のみならず国際的に展開することで、より強靱な"理研ネットワーク"を構築し、優れた研究者・技術者を迎え入れ、育て、次のポストに送り出すという世界の頭脳循環のポンプとしての機能を強化します。

日本唯一の自然科学の総合研究所である理研は、理研でなければできないこと、理研だからできることを究め、今後も世界が求める科学技術イノベーションの創出に積極的に貢献してまいります。

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