このたび、ジョン・ホップフィールド博士とジェフリー・ヒントン博士のノーベル物理学賞受賞を心よりお祝い申し上げます。
理化学研究所のセンター長等のコメントをここに掲載いたします。
- 革新知能統合研究センター 杉山 将 センター長
今回のジョン・ホップフィールド教授及びジェフリー・ヒントン教授のノーベル物理学賞受賞は、機械学習がサイエンス研究の一分野として認知された歴史的な出来事です。
これを機に、機械学習の研究がますます発展し、人類の幸福に一層貢献することを願っています。
- 革新知能統合研究センター 上田 修功 副センター長
このたびのジョン・ホップフィールド教授とジェフリー・ヒントン教授のノーベル物理学賞ご受賞、心よりお祝い申し上げます。ホップフィールド教授は、ホップフィールドネットワーク※1として知られるモデルを提唱し、物理学と神経科学を融合することでニューラルネットワークの理論基盤を築かれました。一方、ヒントン教授は深層学習分野でブレイクスルーをもたらし、誤差逆伝搬法を含む多層ニューラルネットワークの技術的発展に大きく貢献されました。
若き日にトロント大学、ロンドン大学でヒントン教授の研究室で学ぶ機会をいただいたことは、私にとってかけがいのない経験です。当時のことが色鮮やかによみがえり、特にランチの際に研究ではなく独創的なクイズを出していただき、楽しく談笑した日々は今でも懐かしく思い出されます。先生のユーモアと柔軟な思考は、私の好奇心を刺激し、学びの原動力となりました。
ヒントン教授はボルツマンマシンに代表される生成モデル(generative model)のスキームを提唱され、当該分野の先駆者として重要な役割を果たされました。その影響を受けて、私自身も生成モデルの研究に取り組み、今に至っています。また、数年前にNEC C&C賞、および、本田賞を受賞された際は、先生から来賓スピーチの依頼をいただき、更に私たちのセンターに来訪され特別講演を行っていただきました。長年にわたり大変懇意にしていただいたことは私にとって大きな財産となっています。
ヒントン教授の研究者としての卓越した業績のみならず、人間としての温かさと懐の深さには、常に尊敬の念を抱いております。この度のノーベル物理学賞の受賞は、両教授の長年のご功績が広く認められた結果であり、誰もが納得する栄誉です。これからもお二人のご健勝をお祈りし、これまでの偉大なご業績に改めて深く敬意を表します。
- 最先端研究プラットフォーム連携(TRIP)事業本部 科学研究基盤モデル開発プログラム 泰地 真弘人 プログラムディレクター(生命機能科学研究センター 副センター長)
ホップフィールド博士が提唱したHopfieldネットワーク※1は、複雑なシステムであるスピングラスと深く関連しており、統計物理学と機械学習の交差点に位置しています。彼は人工ニューラルネットワークや物理モデルを用いて、複雑な世界をコンピュータ上でモデル化できる可能性を示しました。また、ヒントン博士は人工ニューラルネットワークの基礎から深層学習の実現に至るまで大きな貢献をされています。その後、コンピュータの性能向上と深層学習の発展により、AlphaFold※2によるタンパク質の構造予測など、より複雑な系まで機械学習で予測できるようになり、科学研究に革新をもたらしています。今後は、より複雑な人体や社会のモデル化が進み、計算機による科学の領域が拡大していくでしょう。これらの両博士の功績は非常に大きいものです。
- 計算科学研究センター 松岡 聡 センター長
このたびのジョン・ホップフィールド博士とジェフリー・ヒントン博士のノーベル物理学賞受賞理由となった成果は、泰地プログラムディレクターからのコメントにもある通り、科学研究に革新をもたらすきっかけとなった非常に重要な成果です。理化学研究所においても、AI for Scienceに関する研究開発や、我が国のAI for Scienceを支える次世代フラッグシップシステム「富岳NEXT(仮称)」の開発の検討に取り組んでいるところですが、両博士のノーベル賞受賞に示されるように、科学研究のAI開発・AIの科学利用(AI for Science)を行う動きは世界中で急速に拡大していくことでしょう。
- ※1Hopfieldネットワーク
ホップフィールド博士が提唱した、ユニット(ニューロン)間に対称的な相互作用がある非同期型ネットワークのモデルであり、ニューラルネットワークなどに応用されている。 - ※2AlphaFold
GoogleのDeepMindによって開発された、タンパク質の構造予測を行う人工知能プログラム。
2024年10月17日更新