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2019年2月28日

理化学研究所

マグネシウム-40原子核のガンマ線分光に成功

-中性子過剰な原子核に出現した謎の構造-

理化学研究所(理研)仁科加速器科学研究センターRI物理研究室のピーター・ドーネンバル専任研究員、櫻井博儀室長らの国際共同研究グループは、理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)[1]」を用いて、中性子過剰なマグネシウム-40(40Mg、陽子数12、中性子数28)原子核のガンマ線分光[2]に成功し、二つのガンマ線を観測しました。

本研究成果は、理論研究にインパクトを与え、弱く束縛された原子核を含む新たな原子核描像の構築に向けて貢献することが期待できます。

原子核が比較的安定になる陽子や中性子の数である「魔法数[3]」には28が含まれます。しかし最近の理論研究では、中性子過剰な40Mgでは中性子数28は魔法数でないと予想されていました。

今回、国際共同研究グループは、RIBFで光速の約70%まで加速された大強度のカルシウム(48Ca)ビームを用いて、放射性同位元素(RI)[4]40Mgを人工的に生成する実験を行いました。この実験では、大強度カルシウムビームと高効率ガンマ線検出器DALI2[5]を用いることにより、これまで不可能だった40Mgのガンマ線分光に成功し、低励起準位から脱励起する二つのガンマ線を観測しました。そのエネルギーパターンは他のマグネシウム同位体とは大きく異なっており、40Mgでは魔法数28は喪失していること、40Mgは他のマグネシウム同位体と比べて大きく変形した未知の構造であることが示されました。この謎の解明には、今後の理論研究の進展を待つ必要があります。

本研究は、米国の科学雑誌『 Physical Review Letters』のオンライン版(2月8日付け)に掲載され、Editors’ Suggestionに選ばれました。

※国際共同研究グループ

理化学研究所
仁科加速器科学研究センター RI物理研究室
専任研究員 ピーター・ドーネンバル (Pieter Doornenbal)
室長 櫻井 博儀 (さくらい ひろよし)

ローレンスバークレー国立研究所
原子核科学部門 低エネルギー研究プログラム核構造グループ
研究員 ヘザー・クロフォード(Heather Crawford)
プログラムリーダー ポール・ファロン(Paul Fallon)
グループリーダー オウグスト・マキャベリ(Augusto Macchiavelli)

本研究には理化学研究所をはじめ、他24名(東京大学、大阪大学、東京工業大学、カナダ:セントメリー大学、TRIUMF研究所、フランス:パリ南大学、イギリス:ヨーク大学、ドイツ:GSI研究所)が参加。

背景

原子の中心にある原子核は陽子と中性子から構成されており、陽子の数、中性子の数を変化させることでさまざまな特徴を示します。原子核が比較的安定になる陽子や中性子の数のことを「魔法数」と呼び、自然界に存在する約270種類の安定核では、2、8、20、28、50、82、126が魔法数になることが知られています。

ところが、同じ原子番号の安定核に比べて中性子が多い原子核(中性子過剰核[6])の性質を効率よく調べることができるようになると、魔法数8、20、28が消失し、新しい魔法数16、34が出現することが分かってきました注1~5)。これは、安定核では影を潜めていた相互作用が中性子過剰核の中で働いて、魔法数が変化するからだと考えられています。

これまでに、中性子数28の原子核の陽子数を少なくし中性子過剰度を増やしていくと、原子番号20のカルシウム-48(48Ca、陽子数20)、原子番号18のアルゴン-46(46Ar、陽子数18)、原子番号16の硫黄-44(44S、陽子数16)では中性子数28は魔法数であり、原子番号14のシリコン-42(42Si、陽子数14)では魔法数ではなくなることが分かっていました。さらに中性子過剰度の大きい、原子番号12のマグネシウム-40(40Mg、陽子数12、中性子数28)では、最近の理論研究により中性子数28は魔法数でないことが予想されていました。そこで、国際共同研究グループは、理論予想を検証するために40Mgの実験を行いました。

注1)2000年5月29日プレスリリース「新しい魔法数(マジックナンバー)の発見
注2)2013年10月9日プレスリリース「「魔法数」を持つ原子核に現れる「特別な核異性体」を発見
注3)2013年10月10日プレスリリース「重いカルシウムで新しい「魔法数」34を発見
注4)2014年8月29日プレスリリース「中性子過剰なニッケルの78Niに2重魔法数が健在
注5)2017年2月12日プレスリリース「ジルコニウム-110原子核の形と魔法数

研究手法と成果

魔法数の有無を調べるためには、いくつかの方法があります。国際共同研究グループは、原子核の低励起準位のエネルギーに着目しました。一般に、魔法数を持つと最初に現れる励起準位(第一励起準位)のエネルギーは高く、一方、魔法性が弱くなると第一励起準位のエネルギーは低くなります。励起準位のエネルギー観測を行うためには、研究対象の原子核を励起させて基底状態に戻る際に放出される脱励起ガンマ線を測定する必要があります。

40Mgは放射性同位元素(RI)であり、安定な原子核と比較して著しく中性子の数が多いために、その生成が極めて困難です。世界の多くの加速器施設では、重イオンビームを標的核に照射してRIを生成しています。この手法では、一般的に中性子が一つ多い同位体の生成には、10倍またはそれ以上の高強度の重イオンビームが必要になります。

今回、国際共同研究グループは、高強度重イオンビームが得られる理研の重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」を利用しました。超伝導リングサイクロトロン(SRC)[7]で、光速の約70%となる核子当たり345メガ電子ボルト(MeV、1MeVは100万電子ボルト)まで加速したカルシウム-48(48Ca、陽子数20、中性子数28)ビームを、標的となるベリリウム(Be、原子番号4)に照射し、入射核破砕反応[8]で多くのRIを生成しました。そして、超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)[9]を利用して、生成されたRIの中からアルミニウム-41(41Al、陽子数13、中性子数28)を分離し、41Alをビームとして取り出しました。

次に41AlビームをCH2ポリエチレン標的に照射し、主に水素原子核(陽子)との反応により、中性子過剰40Mgの励起状態を生成しました。生成された40Mgは脱励起後、ゼロ度スペクトロメータ(ZeroDegree Spectrometer)[10]で観測し、同時に脱励起時に放出されるガンマ線を高効率ガンマ線検出器DALI2で検出しました(図1)。

その結果、40Mgから放出される二つのガンマ線を初めて検出し、それぞれのエネルギーは500keVと670keVであることを観測できました。これらのエネルギーは、他のマグネシウム同位体34Mg(中性子数22)、36Mg(中性子数24)、38Mg(中性子数26)のエネルギーパターンと比較すると、大きく異なることが分かります(図2)。

ガンマ線の強度から、40Mgの第一励起準位は500keVだと考えられます。この値は、魔法数28を持つ中性子数28の46Arや44Sの第一励起準位の1300eV~1500eVよりも非常に低いことから、40Mgでは魔法数28は喪失しているといえます。さらに、500keVは34,36,38Mgの第一励起準位(652~662keV)と比べて20%以上も低く、現在の理論では予想できていないため、40Mgの構造は34,36,38Mgと比べて大きく変形している可能性が示唆されました。

また、34,36,38Mgでは、第二励起準位から第一励起準位に遷移する際の1300keV程度のガンマ線が観測されていますが、40Mgでは同程度のガンマ線は観測されていなく、670keVが観測されました。従って、670keVのガンマ線がどのような励起準位から放出されたのかは謎として残りました。

今後の期待

今回の成果で、40Mgは34,36,38Mgとは異なる構造を持っていることが示されました。その理由として、40Mgの弱束縛性が挙げられます。40Mgの二つの中性子がわずかな束縛エネルギーで束縛しているために、40Mgは38Mgの周りに二つの中性子が広がっているハロー構造を持っている可能性があります。

今後、このような弱く束縛された原子核を含む新たな原子核描像の構築に向けて理論研究が大きく進展することが期待できます。さらに、弱束縛な状態は原子核の反応や宇宙での重元素合成(r過程)[11]にも密接に関連しており、元素変換のための新たな描像が確立することも期待できます。

原論文情報

  • H.L. Crawford, P. Fallon, A.O. Macchiavelli, P. Doornenbal, N. Aoi, F. Browne, C.M. Campbell, S. Chen, R.M. Clark, M.L. Cortes, M. Cromaz, E. Ideguchi, M.D. Jones, R. Kanungo, M. MacCormick, S. Momiyama, I. Murray, M. Niikura, S. Paschalis, M. Petri, H. Sakurai, M. Salathe, P. Schrock, D. Steppenbeck, S. Takeuchi, Y.K. Tanaka, R. Taniuchi, H. Wang, and K. Wimmer, "First spectroscopy of the Near Drip-line Nucleus40Mg", Physical Review Letters, 10.1103/PhysRevLett.122.052501

発表者

理化学研究所
仁科加速器科学研究センター RI物理研究室
専任研究員 ピーター・ドーネンバル(Pieter Doornenbal)
室長 櫻井 博儀(さくらい ひろよし)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
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補足説明

  • 1.RIビームファクトリー(RIBF)
    理研が所有する重イオン加速器施設で、水素からウランに至る全ての元素の放射性同位元素(RI)をビームとして供給する。RIビーム発生施設と独創的な基幹実験設備群で構成される。RIビーム発生施設は2基の線形加速器、5基のサイクロトロンと超伝導RIビーム分離生成装置(BigRIPS)からなる。これまで生成不可能だったRIも生成することができ、世界最多となる約4,000個のRIを生成する。
  • 2.ガンマ線分光
    原子核の励起状態のうち、束縛した励起状態はガンマ線を放出してエネルギーの低い状態に遷移する。この脱励起時に放出されるガンマ線を測定して、未知の励起状態のエネルギーやスピン・パリティを決定し、原子核の構造を研究する方法。
  • 3.魔法数
    原子核は原子と同様に殻構造を持ち、陽子または中性子がある決まった数のとき閉殻構造となり安定化する。この数を魔法数と呼び、2、8、20、28、50、82、126が古くから知られている。1949年にマリア・ゲッパート=メイヤーとヨハネス・ハンス・イェンゼンが、大きなスピン-軌道相互作用を導入することによって魔法数を説明し、1963年にノーベル賞を受賞した。その後、理研での中性子過剰な原子核により、メイヤー・イェンゼンの魔法数20、28が消失し、新たな魔法数16、34が出現することが報告されている。
  • 4.放射性同位元素(RI)
    物質を構成する原子核には、時間とともに放射線を放出しながら安定核になるまで壊変し続けるものがある。このような原子核を放射性同位元素と呼ぶ。放射性同位体、不安定同位体、不安定原子核、不安定核、ラジオアイソトープ(RI)とも呼ばれる。天然にある物質は寿命が無限かそれに近い安定核(安定同位体)で構成されている。
  • 5.DALI2
    微量のタリウム(Tl)を含むヨウ化ナトリウム(NaI)の結晶からなるシンチレーション検出器186台で構成される、測定効率の高いガンマ線検出装置。ガンマ線のエネルギーと放出角度を測定することができる。
  • 6.中性子過剰核
    安定同位体と比較して中性子を多く含んだ不安定核。ほとんどはベータ崩壊を起こし、原子番号が一つ大きな核種に壊変する。陽子と比べて中性子の分布が大きく広がった中性子ハローや、中性子だけで表面が作られている中性子スキン、既知の魔法数の消滅や新魔法数の出現などの興味深い現象が見つかっている。
  • 7.超伝導リングサイクロトロン(SRC)
    サイクロトロンの心臓部に当たる電磁石に超伝導を導入し、高い磁場を発生できる世界初のリングサイクロトロン。全体を純鉄のシールドで覆い、磁場の漏洩を防ぐ自己漏洩磁気遮断の機能を持っている。総重量は8,300トン。このSRCを使い非常に重い元素であるウランを高速の70%まで加速できる。また、超伝導という方式によって従来の方法に比べ100分の1の電力で動かせるため、大幅な省エネも実現している。
  • 8.入射核破砕反応
    加速された原子核が標的の原子核に当たった時に複数の破砕片に崩壊する反応をいう。破砕片には陽子過剰核や中性子過剰核などのRIが多く含まれる。
  • 9.超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)
    ウランなどの1次ビームを生成標的に照射することによって生じる大量の不安定核を集め、必要とするRIを分離し、RIビームを供給する装置。RIの収集能力を高めるために、超伝導四重極電磁石が採用されており、ドイツの重イオン研究所(GSI)など他の施設に比べて約10倍の収集効率を持つ。
  • 10.ゼロ度スペクトロメータ(ZeroDegree Spectrometer)
    BigRIPSの下流にある多機能ビームライン型分析装置で、質量数200程度までの反応生成物の粒子の識別、運動量の精密測定などを行うことができる。多くの反応実験では、ビームとして入射する不安定核に比べて軽い標的を利用するため、反応生成物はゼロ度方向に出射しやすい。このような特徴をとらえて、分析装置の名称に「ゼロ度」というキーワードがついている。
  • 11.重元素合成(r過程)
    超新星爆発時に起きると考えられている元素合成過程のモデル。高速(rapid)に連続して中性子を捕獲しながら崩壊(β崩壊)するため、「r過程」と呼ばれる。鉄以上の重元素のほぼ半分は、このr過程で生成される。重元素を生成するもう一方のs(slow:低速)過程は、赤色巨星への進化段階でゆっくりした中性子捕獲によって元素合成が行われる。s過程に比べ、r過程は未解明な部分が多い。このr過程が起きる場所の候補として、中性子星同士の融合も提案されている。
実験装置群の配置図の画像

図1 実験装置群の配置図

大強度カルシウム-48(48Ca)ビームを超伝導リングサイクロトロン(SRC)で加速し、ベリリウム標的に照射して、41AlのRIビームを超伝導RIビーム生成分離装置(BigRIPS)で生成。このビームをCH2ポリエチレン標的に照射して、40Mgを生成し、ゼロ度スペクトロメータで観測。同時に、脱励起したガンマ線をCH2標的の周りに配置した高効率ガンマ線検出器DALI2で測定する。

マグネシウム同位体の脱励起ガンマ線のエネルギーの図

図2 マグネシウム同位体の脱励起ガンマ線のエネルギー

34,36,38Mgの第一励起準位は652~662eVであり、第二励起準位から第一励起準位に遷移する際に1360~1395keV程度のガンマ線が放出される。今回検出した40Mgの二つのガンマ線のエネルギーのうち、500eVは第一励起準位と考えられるが、670eVはどのような励起準位から放出されたのかは謎として残った。

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