2019年12月17日
理化学研究所
自然科学研究機構
科学技術振興機構
高活性・高耐久性のエステル化固定化触媒
-第二世代型ポリフェノールスルホン酸樹脂触媒の開発に成功-
理化学研究所(理研)環境資源科学研究センターグリーンナノ触媒研究チームの山田陽一チームリーダー、自然科学研究機構分子科学研究所の魚住泰広教授らの共同研究チームは、既存の固定化高分子酸触媒[1]よりも高収率(高活性)で、かつ工業的に重要なフロー型[2]反応に適用可能な高耐久性のエステル化[3]に有効な固定化高分子酸触媒の開発に成功しました。
本研究成果は、化学プロセス業界や医薬品業界で所望される効率的なエステル合成プロセスの開発に貢献すると期待できます。
エステル化合物は、化成品、医薬品などさまざまな化学製品に用いられる重要な有機化合物で、業界からは、より効率良くエステル化合物が得られる固定化触媒[4]の開発を求める声が上がっています。
今回、共同研究チームは、メタフェノールスルホン酸とホルムアルデヒドから第二世代型ポリフェノールスルホン酸樹脂触媒を開発しました。この高分子酸触媒は水にも有機溶媒にも溶けず、2013~16年にかけて当研究チームが開発した第一世代型ポリフェノールスルホン酸樹脂触媒に比べて、高い耐久性と物理的な堅牢性を持ち、フロー型反応において既存の固定化高分子酸触媒よりも高い収率でエステル化合物が得られます。15日間にわたるフロー型エステル化反応の連続運転を行ったところ、触媒活性が低下することなく、バイオディーゼル燃料[5]を90%以上の収率で合成することに成功しました。
本研究は、米国の科学雑誌『Organic Letters』のオンライン版に12月16日付で掲載されました。
図 第二世代型固定化高分子酸触媒の開発とフロー型エステル化反応への応用
背景
カルボン酸とアルコールから得られるエステル化合物は、化成品、医薬品などさまざまな化学製品に用いられる重要な有機化合物です。これまで化学プロセス業界、医薬品プロセス業界から高収率(高活性)で耐久性に優れ、水にも有機溶媒にも溶けない高堅牢性の固定化高分子酸触媒の開発が求められてきました。
山田陽一チームリーダーらは、2013~16年にかけて第一世代型の高分子酸触媒(ポリフェノールスルホン酸樹脂触媒)の開発を行い、エステル化反応に適用してきました注1)。しかし、この第一世代型固定化高分子酸触媒は、触媒調製時とエステル化反応時のいずれにおいても、高温条件下ではパラ位[6]のフェノール基の関与による脱硫酸が生じるという問題があり、活性・耐久性・堅牢性などの面において十分とはいえず、さらなる改良が必要でした。
- 注1)2016年5月18日プレスリリース「副生成物処理が不要なエステル化反応の触媒を開発」
研究手法と成果
共同研究チームは、フェノール基の関与が低いと考えられるメタ位[6]にフェノール基を持つメタフェノールスルホン酸を原料として用い、ホルムアルデヒドと重合させることにより、第二世代型ポリフェノールスルホン酸樹脂触媒を合成し(図1)。この高分子酸触媒は堅牢性と化学的安定性に優れる高分子化合物であることが確認されました。
図1 第二世代型高分子酸触媒の生成法
メタフェノールスルホン酸ナトリウムとホルムアルデヒドを重合させて、第二世代の高分子酸触媒であるポリフェノールスルホン酸樹脂触媒を生成した。
次に、第二世代型触媒の耐久性を検証するため、アクリル酸とメタノールのフラスコを用いたバッチ型[2]反応を繰り返し行いました(図2)。その結果、第一世代型触媒では数回の使用で触媒活性が低下したのに対し、第二世代型触媒では10回繰り返し使用しても触媒活性は低下することなく、アクリル酸メチルが生成されました。また、一般的な触媒ではエステル化反応を進行させるために、エステル化で生成する水を除去し、化学平衡を右にずらす必要がありますが、第二世代型触媒も第一世代型触媒と同様に、この操作が不要でした。
図2 第二世代型高分子酸触媒を用いたバッチ型エステル化反応
第二世代型触媒の存在下で、カルボン酸とアルコールを反応させるとエステルと水が高い収率で生成する。また、この触媒を用いると、従来の水除去の操作が不要になるという利点がある。
さらに、第二世代型触媒を工業的に重要なフロー型エステル化反応に適用しました。カラムカートリッジに充填した触媒を用いて、アクリル酸とエタノールのエステル化反応を行ったところ、市販の各種高分子酸触媒よりも高い収率でアクリル酸エチルが生成されることが分かりました(図3)。また、さまざまなカルボン酸とアルコールの組み合わせでフロー型反応を行った結果、いずれの場合も高い収率で対応するエステル化合物が生成されました。
加えて、オレイン酸とリノレン酸をそれぞれメタノールとフロー型で反応させました。どちらも15日間ずつ稼働させた結果、触媒活性が低下することなく、対応するバイオディーゼル燃料が90%以上の収率で得られました。
図3 第二世代型高分子酸触媒によるフロー型エステル化反応
カラムカートリッジに充填した第二世代高分子酸触媒を用いるフロー型エステル化反応では、既存の高分子酸触媒よりも高い収率でエステルが得られた。
今後の期待
今回開発した第二世代型高分子酸触媒を用いたフロー型エステル化合物合成システムでは、さまざまなエステル化合物が高い収率で効率的に得られます。今後、より効率的な化学プロセス、医薬品合成プロセスの開発が期待できます。
補足説明
- 1.高分子酸触媒
高分子に酸(ここではスルホン酸)が導入された触媒。 - 2.フロー型、バッチ型
フラスコやタンクなどの閉鎖系で行う反応のバッチ型に対し、フロー型の反応は連続的に反応液を流通させて行う。フロー型は連続運転が可能なため、連続的に生成物が得られる利点がある。 - 3.エステル化
カルボン酸とアルコールが反応して、エステルと水が生成する反応。 - 4.固定化触媒
触媒反応部位が不溶性の担体に固定化された触媒のこと。ここではスルホン酸が高分子担体に固定されている。 - 5.バイオディーゼル燃料
脂肪酸メチルエステルのこと。オレイン酸などの植物油とメタノールから合成される脂肪酸メチルエステルは、ディーゼル燃料と似た燃料特性を持つためバイオディーゼル燃料と呼ばれている。 - 6.パラ位、メタ位
ベンゼン環の置換基(ここではOH)の隣をオルト位、炭素を一つ挟んだ隣をメタ位、さらにその隣をパラ位と呼ぶ(下図参照)。
共同研究チーム
理化学研究所 環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チーム
チームリーダー 山田 陽一(やまだ よういち)
特別研究員 ハオ・フウ(Hao Hu)
研究員 ヒヨル・ベク(Heeyoel Baek)
自然科学研究機構 分子科学研究所
教授 魚住 泰広(うおずみ やすひろ)
特別教授 間瀬 俊明(ませ としあき)
研究支援
本研究の一部は、科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業ACCEL「超活性固定化触媒開発に立脚した基幹化学プロセスの徹底効率化(JPMJAC1401)(研究代表者:魚住泰広、プログラムマネージャー:間瀬俊明)」による支援を受けて行われました。
原論文情報
- Hao Hu, Hajime Ota, Heeyoel Baek, Kenta Shinohara, Toshiaki Mase, Yasuhiro Uozumi, and Yoichi M. A. Yamada, "Second-Generation meta-Phenolsulfonic Acid-Formaldehyde Resin as a Catalyst for Continuous-Flow Esterification", Organic Letters, 10.1021/acs.orglett.9b04084
発表者
理化学研究所
環境資源科学研究センター グリーンナノ触媒研究チーム
チームリーダー 山田 陽一(やまだ よういち)
自然科学研究機構 分子科学研究所
教授 魚住 泰広(うおずみ やすひろ)
報道担当
理化学研究所 広報室 報道担当
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