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2013年12月5日

最短波長・高効率深紫外LEDの実現 - 実用レベルDeep UV-LED -

理研No. 07745, 07323, 08095

発明者

平山 秀樹(平山量子光素子研究室)

背景

紫外域のうち特に260nm程度の波長域(深紫外域)の光は、殺菌、浄水から医療応用にまで広がる幅広い用途が見込まれることから、深紫外LED(DUVLED)の開発が進められています。典型的な深紫外LEDの構成は、サファイア基板を利用し、Al、Ga、およびNを主組成とする窒化ガリウムアルミニウム系の半導体による積層構造体を備えるものです。

LEDの外部量子効率は、内部量子効率(IQE)、電子注入効率(EIE)、光取り出し効率(LEE)の乗算値で表されます。

【式】 ηext(外部量子効率)=ηint(内部量子効率)×ηinj(電子注入効率)×ηlee(光取り出し効率)

ホール濃度が低く、電子バリア高さが十分でない250-330nm帯の深紫外/紫外LEDの実現は極めて難しく、高効率・高出力化に向けた研究が進められています。

最短波長半導体発光素子の実現の画像

図1:最短波長半導体発光素子の実現(λ=222-351nm)

概要

[世界最高品質AlNバッファーの実現]

従来、AlNバッファーの発光効率が低いことが、LEDの外部量子効率を下げる大きな要因となっていました。短波長側での固体発光素子の作製では、AlGaNのAl組成を増加させてバンドギャップエネルギーを拡大させますが、サファイア基板との格子定数の不整合が生じることから、半導体薄膜中の貫通転位の密度が高くなり、内部量子効率を低下させていました。

AlGaNなどのIII族窒化物では、極性制御が非常に重要になります。そこで、NH3をパルス供給することにより安定したIII族極性が実現できることを見出し、「NH3パルス供給多段成長法」を完成させました。この方法によってAlNバッファーを作製すると、貫通転位率が従来の1/100にまで低減され、クラック発生阻止・原子層平坦化も実現されました。紫外領域(280nm)においては、内部量子効率が従来の0.5%以下から50%へと格段に向上、発光強度も80倍に増強にされました。

結晶成長技術の進展の図

図2:NH3パルス供給多段成長法による結晶成長技術の進展

AlNの貫通転位低減・原子層平坦化の図

図3:AlNの貫通転位低減・原子層平坦化を実現

[多重量子障壁(MQB)による発光効率の飛躍的向上]

従来、P型AlGaNのホール濃度が低いため電子注入効率の改善は非常に困難でした。InAlGaN系の紫外素子においては、AlNに近い組成を有するAlGaNを用いますが、原理的にそれ以上のバリア高さをもつバリアを実現することは困難であるためです。

多重量子障壁(MQB)を用いると、電子の多重反射効果により実質的な電子ブロック高さが2~3倍に上昇するため、単一バリアの場合と比べて電子のブロック効果が高まります。本発明では、MQBを用いることによって、電子注入効率が20%から80%に飛躍的に向上しました。

MQBによる電子のブロック効果は、A面に成長した場合においても、C面上に成長した極性のある結晶の場合においても、バリア高さが高いほど効果が良くなります。さらにMQBの周期を順番に変化させることによって、広いエネルギー範囲にわたって電子をブロックすることができるようになり、同周期のMQBに比べて、より電子ブロック効果が顕著となります。この発明により、発光層の材料としてAlGaInN系の材料、特にAlGaN系の材料を用いつつ、深紫外光の発光強度をさらに高めるための要素技術を提供することが可能になりました。

多重量子障壁の効果の図

図4:多重量子障壁(MQB)の効果の概念と解析例

[結合ピラーAlNバッファーによる高出力LEDの実現]

内部量子効率や光取り出し効率に対する影響を可能な限り抑制しつつ外部量子効率を向上させるためには、低転位、かつ、光の方向変換作用を有するバッファー層が求められます。そこで、結合ピラーAlNバッファーと呼ばれる構造を有するAlNバッファー層を作製しました。

結合ピラーAlNバッファーは、複数のピラーが配列されているピラー配列部と、ピラーが互いに結合して形成されている一体化部とを備える構造です。各ピラーが、サファイア基板の凸部それぞれから一方の面の法線方向に延び、面内方向において互いにギャップにより隔てられています。サファイア基板の凸部は、その頂部から個々のピラーを結晶成長させる作用をもちます。

この結合ピラーAlN結晶のバッファー層では、ピラーが結合した一体化部の結晶構造ゆえ低転位の結晶構造が実現され、またピラーとギャップとの構造を有するので、光の方向変換作用が発揮されます。この発明により、光取り出し効率を高めた深紫外/紫外LEDが実現されます。

結合ピラーバッファーの形成の図

図5:結合ピラーバッファーの形成に世界初成功

利点

  • 広い紫外波長範囲(波長:200-360nm)
  • 量子井戸を用いた高効率発光が可能
  • p型、n型伝導が可能
  • ハード材料(長寿命素子の実現が可能)
  • 砒素、鉛、水銀フリー材料(環境に無害)

応用

[殺菌]波長:270nm
加熱を伴わない直接殺菌(耐性菌が出来ない、劣化しない)

  • 家庭用殺菌(冷蔵庫、浄水器、エアコン、空気清浄器、加湿器、ポット、循環風呂、水虫治療器、掃除機など)
  • 食品・農作物、畜産物の流通経路の殺菌(たまご、かまぼこ、ベルトコンベア、ペットボトル口部、薬の包装物など)
  • 大型施設の殺菌設備(上水タンク、空気設備など)

[医療応用]波長:250-280nm、300-320nmなど

  • 皮膚治療
  • レーザメス、細胞選別

[公害物質の高速分解処理]波長:260-320nm

  • 酸化チタン(光触媒反応)による汚染物質(ダイオキシン、PCB、環境ホルモン等)の浄化
  • 自動車排気ガスの高速浄化(無公害車)

[高密度光記録レーザ]波長:-250nm

  • 深紫用DVD

[高演色・長寿命蛍光灯]波長:340nm

  • 高輝度白色光UV-LEDアレイ
  • 高効率(~40%)、長寿命(数十年)

[紫外硬化樹脂、生化学産業]波長:250-280nm、365nmなど

[各種光情報センシング]波長:250-280nm、325nmなど

  • 蛍光分析、表面分析、紫外線センサーなど

今後の展望

  • 2年程度で効率20%程度の深紫外LED実現を予定
  • 素子を集積し、ワットクラス高出力デバイス実現の可能性
  • 家庭、病院設備、食品流通などの殺菌・浄水用途としての普及

文献情報

  • 1.特許第5120861号、米国特許第7888154号
  • 2.米国特許第8759813号
  • 3.米国特許第9660140号

関連情報

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