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2013年11月25日

生体試料の深部イメージングを可能にする新しい光学顕微鏡

理研No. 07895

発明者

磯部 圭佑、緑川 克美(緑川レーザー物理工学研究室)

背景

近赤外光を用いた非線形光学顕微鏡は、光を散乱しやすい生体試料の深部観察を行うのに適した装置です。通常、対物レンズを用いて焦点に光を集めるため、集光点付近だけが観察可能となり、この集光点を動かして断層像を取得します。

しかし観察する深さが深くなるほど、吸収や散乱による光損失が大きくなり、集光点だけでなく試料表面においても非線形現象が誘起されるため、集光点以外で発生した光(背景光)がノイズとなって、観察が困難になります。また可視光の約2倍の波長である近赤外光を用いること、低い実効開口数で使用することなどから、原理的に空間分解能が大変低くなります。

概要

2波長励起の2光子吸収、2光子蛍光、和周波発生、差周波発生、誘導ラマン散乱などの非線形光学過程によって発生する信号光強度は、2波長パルスの強度の積に比例し、2波長パルスの時間的・空間的な重なりによって誘起されます。2波長パルスの空間的な重なりを変調させることにより、発生する信号光に強度変調を誘起することができます。この強度変調は、光軸方向において焦点面で最も大きく、焦点面から離れるほど小さくなります。また、集光スポットの中心から周辺へ向かって、変調される信号光強度の周波数特性が変化します。

SPOMNOM(スパムナム)の原理の図

図1:SPOMNOM(スパムナム)の原理

新しい顕微鏡法「SPOMNOM(スパムナム)」では、2つの波長のパルスレーザーを光源に用い、1つの光パルスレーザーは固定し、別の光パルスレーザーには所定の周波数で相対的な位置変調を与えることによって、集光点近傍で発生する信号光のみに強度変調を誘起し、発生した信号光を変調周波数でロックイン検出します。すると集光点以外で発生する背景信号(背景光)を抑制することができ、より深部の観察が可能になります。また、検出される信号は、集光スポットよりも小さな領域から発生した信号となるため、空間分解能が向上します。

この「SPOMNOM(スパムナム)」法は、従来の全ての非線形光学顕微鏡に適用可能です。従って、蛍光分子を観察する非縮退2光子蛍光だけでなく、非対称な分子を観察する和周波発生、屈折率を観察する4光波混合、分子の振動状態を観察する誘導ラマン散乱など、多様な非線形光学現象を利用した観察を同時に行うことができるようになります。

空間分解能の向上の図

図2:空間分解能の向上

深部イメージング能の向上の図

図3:深部イメージング能の向上

利点

  • 表面近傍で発生する背景光を除去可能(従来の約100分の1に抑制)
  • 観察可能な深さが従来の2倍に向上
  • 同じ開口数を用いた場合に、空間分解能を1.4倍~2倍に向上
  • 高い開口数で使用可能(空間分解能 200 nm以下)

応用

  • 生物、医学、創薬分野の研究(リンパ組織の免疫作用可視化、脳組織の機能可視化など)
  • 組織切片などを切り出して行う病理検査(染色不要、切片の切り出し不要も実現か?)
  • 半導体や光学素子などの非破壊検査
  • 食品の非破壊検査

文献情報

  • 1.PCT/JP2012/052377
  • 2.K. Isobe et al., Biomed. Opt. Express, 3, 1594-1608 (2012).
  • 3.K. Isobe et al., Biomed. Opt. Express, 4, 1548-1558 (2013).
  • 4.K. Isobe et al., Biomed. Opt. Express, 4, 1937-1945 (2013).

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