2013年11月15日
Erexim法を用いた抗体医薬品糖鎖構造の高速定量評価
理研No. 08077
発明者
植田 幸嗣(理研:ゲノムシーケンス解析研究チーム)
遠山 敦彦(株式会社島津製作所)
背景
抗体分子上の様々な糖鎖構造の違いが薬効や安全性に大きく影響することが明らかとなり、Guidance for Industry, Scientific Considerations in Demonstrating Biosimilarity to a Reference Product (Feb. 2012, FDA) にも指摘されているように、多様性のある糖鎖構造を定量的に分析し、どの構造がどの割合で含まれるのかを高効率にプロファイルする方法の開発が、次世代の新規抗体医薬品、後発抗体医薬品の開発、品質評価分析のために強く求められています。
概要
抗体医薬品を含むタンパク質医薬品の薬効と安全性を左右する糖鎖構造プロファイルを、10分間で精密定量化する質量分析システム、Energy-resolved oxonium ion monitoring (Erexim) 法を開発しました。
Erexim法では、トリプル四重極型質量分析計にて、トリプシン消化後の試料をLC/MS/MS分析に供します。第一四重極(Q1)にて標的糖ペプチドを質量で選択し、第二四重極(Q2)で衝突解離(CID)を行い、続いて第三四重極(Q3)で糖鎖のフラグメント(オキソニウムイオン)を定量的にモニターします。
図1:Erexim法の原理
質量が全く同じ糖ペプチドでも、Ereximカーブの違いから異性体を区別して定量することができます。
このErexim法による市販抗体医薬品の分析から、これまで知られていなかったロット間糖鎖構造の有意な変動や、アナフィラキシーの要因となる非ヒト型糖鎖の含有率などが明らかとなりました。Erexim法の利用により、安全で効果が高い次世代糖鎖改変医薬品開発が可能となるだけでなく、医薬品糖鎖構造の新たな品質評価基準を提唱することができます。
図2:Erexim法による抗体分子上糖鎖構造異性体の分析例
利点
- 糖鎖構造の定量プロファイルが、1サンプルあたり10分間で完了
- サンプル前処理はシングル処理、96ウェル処理に対応し、1時間で完了
- 分析対象の単離精製が必要ない。培養上清、血清などから直接標的タンパク質の糖鎖構造のみモニターできる
- 定量レンジは104以上(0.1%含有率の糖鎖構造も定量可能)
- 糖ペプチドの状態で分析するため、糖鎖付加部位情報が保持される(一分子中のどの糖鎖が変動したかが判明)
応用
想定ユーザー
- 抗体医薬品をはじめとするタンパク質医薬品メーカー
- ベンチャー企業
- 基礎研究機関
測定対象
- 新規開発タンパク質医薬品、後発タンパク質医薬品などの、あらゆる糖タンパク質サンプル
- 血清、培養上清など未精製サンプル可
応用分野
- 次世代抗体医薬品の開発、その他タンパク質医薬品の開発
- タンパク質医薬品に対する新たな国際品質評価水準の策定
文献情報
- 1.特願2013-185373、US13/943130、KR10-2013-83647
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