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  2. 新型コロナウイルスに関する研究開発(2022年10月6日更新)

新型コロナウイルスを直接視る技術

実施代表・実施者等
宮脇 敦史 チームリーダー
連携先
北里大学、慶応義塾大学、花王株式会社

研究概要

問1:研究の概要を教えてください。
ウイルスを視覚的に捉えて感染を診断する技術の開発に取り組んでいます。ヒト唾液の数マイクロリットル(1マイクロリットルは1ミリリットルの1000分の1)に含まれる感染細胞を蛍光で染色して観察します。遺伝子の人為的な増幅を必要としないので定量的な解析が可能となります。私たちが独自に開発した蛍光タンパク質の特長を生かして新型コロナウイルスの高感度検出を目指しています。
問2:なぜこの研究を行おうと思ったのでしょうか。
新型コロナウイルスの検査に用いられているPCR検査は、遺伝子の増幅を利用しており、基本的には陽性か陰性かの判定しかできません。判定基準も明確でなく国際標準はありません。一方、抗原検査は感度が悪く、早期における感染を診断することはできないとされています。また、PCR検査も抗原検査も、被検者由来のサンプルをまとめて攪拌・反応させるため、新型コロナウイルスがどのような状態で分布・存在しているかを調べることはできません。私たちは、私たちの研究室が得意とする蛍光タンパク質技術を生かして、定量的で高感度な新型コロナウイルス可視化技術を開発しようと思い立ちました。ウイルスを「見る」ことができれば、見えないことから生まれる不安が払拭できると考えました。
問3:どういった方法で実現しようとしているのでしょうか。
ヒトをはじめ脊椎動物の体には免疫機能が備わっており、体内に侵入してきたウイルスや細菌などの異物(抗原)を認識して除去する抗体がつくられます。私たちのアプローチでは、まず、新型コロナウイルスが持つタンパク質に特異的に結合する抗体を利用します。こうした抗体の一種である「VHH抗体」は遺伝子工学的に扱うことが可能で、昨今非常に注目されています。私たちは北里大学と花王株式会社が開発した抗Sタンパク質VHH抗体および抗Nタンパク質VHH抗体を使って研究を進めています。抗Sタンパク質VHH抗体は、ハムスターを使った実験で新型コロナウイルスに対する感染防止効果が確認されています。また、抗Nタンパク質VHH抗体は、新型コロナウイルスの内部に多量に存在するヌクレオカプシド(N)タンパク質という構造タンパク質に特異的に結合します。これらのVHH抗体を、理研で独自に開発した緑や赤の蛍光タンパク質につなげ、新型コロナウイルスを認識する蛍光VHH抗体を開発します。検証に用いる新型コロナウイルス患者および健常者の唾液は、慶應義塾大学病院にて採取、調製、遺伝子解析を行います。
問4:研究の進捗状況を教えてください。
新型コロナウイルスのSタンパク質やNタンパク質と強固に結合する緑と赤の蛍光VHH抗体を創出しました。新型コロナウイルス患者の唾液わずか数マイクロリットルをスライドガラス上に広げて蛍光VHH抗体を振りかけたところ、明るく染まる感染細胞を同定することができました(図左)。上皮細胞特有のサイトケラチンというタンパク質を認識する抗体を使った染色を同時に行ったところ、感染はこれまで考えられていたような扁平上皮細胞だけではなく、炎症細胞などの上皮細胞以外のものが含まれることが解りました。健常者の唾液からは感染細胞は検出されませんでした(図右)。私たちは、感染細胞における蛍光シグナルの量および分布パターンから、患者の感染の期間や重症度を推定する定量法を提案しています。
の図
問5:今後の課題を教えてください。
現在まで世界中で開発されてきた新型コロナウイルスの診断法は、簡易さやスピードを追求するものがほとんどです。感染細胞の可視化に基づく私たちの方法は、信頼度が高く情報量の多い診断法を提供すると期待されます。本研究の連携機関とともに、微生物を使って蛍光VHH抗体を大量につくる手法を構築中です。

関連リンク

2022年4月26日プレスリリース「色褪せない蛍光タンパク質

2022年4月26日掲載

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