アフターコロナの社会における社会的なつながりとLonelinessの研究
- 実施センター
- 理化学研究所 脳神経科学研究センター 理研CBS-トヨタ連携センター 社会価値意思決定連携ユニット
- 実施代表・実施者等
- 赤石れい ユニットリーダー
- 連携先
- 中央研究院(台湾)
研究概要
- 問1:研究の概要を教えてください。
- 長引く新型コロナウイルス感染症によるパンデミックの状況下で深刻化するロンリネス(孤立・孤独)の問題について、その原因を解明し対策の糸口となるような知見を得ることを目指します。ロンリネスの問題はうつ病や自殺などの社会的に大きな損失をもたらすメンタルヘルスの問題と直結しており、長期化するパンデミックの社会状況の下では最も深刻な問題の一つになっています。この問題の科学的な理解を進めることで、社会で暮らす人々の苦痛を和らげ幸福の促進をするための政策や支援に繋げます。
- 問2:なぜこの研究を行おうと思ったのでしょうか。
- 昨年からこの新型コロナの状況下での社会的な変化によって人々の「心」にどのような影響が起こっているかを調べてきました。例えば、社会レベルでの感染を防ぐための協力行動は社会的にどのような条件があれば起こりやすくなるか、地方自治体などの組織は新型コロナのパンデミックの状況にいかに対応しているかなどです。研究を進めていく中で、長期的にこのパンデミックの影響が出てくるのは社会的ストレスによる精神疾患の問題であると予測しました。そのためロンリネスの問題として具体的に取り組むこととしました。
- 問3:どういった方法でそれらの問題を克服するのでしょうか。
- 数千人~1万人の大規模調査により、ロンリネスやうつ病、主観的な幸福感の指標などの精神的な健康に関わる指標について、心理学的、経済学的な要素から、原因となっている環境的要因や社会心理的要因を特定します。またこれらの背後にある社会構造的な問題を浮き彫りにすることも目指します。解析方法として、経済学や社会科学などのビッグデータを扱う分野において標準の方法となっているマルチレベルでの回帰分析や因果関係を推定する手法を用います。
- 問4:現時点でどこまで分かっているのでしょうか。
- 社会神経科学者のジョン・カシオッポなどの長年の研究により、社会的な繋がりの不足や信頼関係の不足などが精神疾患としてのロンリネスの状態を作り出すと考えられています。しかしこれらの考え方の基になっている研究は全て欧米圏で行われたもので、日本の文化や社会状況に特有のロンリネスの構成要素があることも考えられます。これまでのところ文化を超えたロンリネスのメカニズムの普遍性もしくは文化ごとに異なるメカニズムなどについてはほとんど分かっていません。
- 問5:今後の課題を教えてください。
- 日本という文化や社会構造に合わせたロンリネスの研究が求められると考えています。例えばロンリネスに関連した主観的な幸福感の指標は、日本においてはその経済レベルと比べると極端に低いことが知られています。これは日本独特の社会構造が影響しており、幸せの感じ方だけでなく孤立・孤独の感じ方についても同様の影響を及ぼしている可能性があります。日本でのロンリネスの対策も日本に特化したものにする必要があります。この研究はそういった文化差によるメカニズムのギャップを埋める役割を担うと考えています。
- 追記:上記の研究に関し出版された論文について
- 前述のように、日本での孤独感を理解するためには日本の文化や社会構造にとって特有の要素も加味して考える必要があります。論文では、関係流動性という個人が自由に所属するグループを移動することや、その選択を行う自由、今まで知らなかった人々と新しく出会う機会の多さなどを示す指標が孤独感にとって重要であることを示しました。社会の柔軟性・硬直性を示すこの要素は、従来言われていた親しい関係の多寡とは関係なく人間の孤独感に影響を与えることが分かりました。また経済的な豊かさなどの指標を加えても、この関係流動性の要素は孤独感に独立の影響を持つことも分かりました。このような知見は、応用的な価値を持ち、孤独対策など政策のデザインに寄与するものです。更に人間自体を科学的に理解する上で社会的・文化的な構造に関する要素を考慮する重要性を示しています。この研究は科学雑誌『Scientific Reports』(2022年9月27日付)に掲載されました。
- 原著論文情報
- Badman, R. P., Nordström, R., Ueda, M., & Akaishi, R. (2022). Perceptions of social rigidity predict loneliness across the Japanese population. Scientific Reports, 12(1), 1-14, 10.1038/s41598-022-20561-5
2022年10月6日更新