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研究最前線 2021年6月21日

検出法開発からマスクの効果分析まで、新型コロナ研究で成果

理研が総力を挙げて取り組み、新型コロナウイルスの克服を目指す特別プロジェクト。現在、スーパーコンピュータ「富岳」を使った飛沫の動きや薬の開発に必要なシミュレーションから人工ワクチンの開発まで、30以上のテーマで研究開発が進んでいます。そして2021年4月には、たった5分で感染しているかどうかを診断できる世界最速の検出法を発表するなど、成果が出つつあります。

検出用のマイクロチップを手にする松本紘理事長(写真左)と渡邉力也主任研究員の写真

図1 検出用のマイクロチップを手にする松本紘理事長(写真左)と渡邉力也主任研究員

その数30超、理研の新型コロナ関連研究

世界保健機関(WHO)が2020年3月に新型コロナウイルスのパンデミックを宣言した翌月、理研は特別プロジェクトを立ち上げた。「人類生存の危機に瀕した今、まさに科学技術の真価が問われている」と、松本紘理事長自らリーダーシップを発揮し、研究を迅速に軌道に乗せるため、理事長裁量経費を投じた。

特別プロジェクトの特徴の一つは多様性だ。免疫学や遺伝学といった生命科学から計算科学まで、さまざまな領域で新型コロナウイルスの克服を目指し、30以上の研究開発が進んでいる。もう一つの特徴は、他機関の研究に対する支援も同時に行っている点だ。文部科学省と連携した完成前のスーパーコンピュータ「富岳」の試行的な利用や、創薬研究に役立つデータベースの公開など、有形無形の研究資源を世界中の研究者に提供している。

成果も次々に出ている。計算科学研究センターでは、大学や企業と共同研究で、「富岳」を使って飛沫についてシミュレーションを行った。屋内外での会食時や、公共の場において、マスクの材質の違いなどさまざまな条件下で、どんな大きさの飛沫がどう拡散するか、一目でわかる動画などで結果を公表した。

5分で結果の分かる検出法

2021年4月には渡邉力也主任研究員らが、たった5分で新型コロナウイルスを検出する方法を発表した。容量が1,000兆分の1リットル単位の微小な試験管を100万個も並べたマイクロチップと、酵素の1種、特定の条件下で光る蛍光レポーター(試薬)の三つを組み合わせたものだ。

土台には、東京大学先端科学研究技術センターの西増弘志教授らと共同で開発し、すでに特許出願していた1分子計測法があった。それを新型コロナウイルスの検出法に応用しようと共同研究を始めた時期にちょうど、特別プロジェクトのテーマの募集があった。

「理事長の裁量経費による支援のおかげで、すぐに研究を本格化させることができました」。渡邉主任研究員は開発を始めた当初をこう振り返る。

「SATORI」で使用されるマイクロチップの写真

図2 「SATORI」で使用されるマイクロチップ

世界最速の検出法 「SATORI」の図

図3 世界最速の検出法 「SATORI」

検体にRNAの特定の部位を認識したり切断したりできる酵素「CRISPR-Cas13a」と、ウイルスのRNAが存在する時に光る蛍光レポーター(試薬)を混ぜ、微小な試験管が並ぶマイクロチップに流す。直径約3マイクロメートルの微小試験管には、ウイルスのRNAがほぼ1個だけ入る。マイクロチップ上の光る点を数えることで、標的ウイルスの個数が分かる。

一刻も早い実用化を目指す

診断の正確さは命にかかわる問題だ。渡邉主任研究員らは、検出感度の向上などを目指し、検出法の行程をすべて最適化するために、二千回以上も実験を繰り返した。

目指すのは、一刻も早い実用化だ。今後は臨床検査機器・試薬の大手企業、シスメックス株式会社と共に実用化を目指す。一環として、2021年中には東京医科歯科大学と共同で、感染者の検体を使い、検出法を改良する予定だ。

特別プロジェクトは2021年春、新たな段階に入った。科学技術基本法の改正により、今年度から理研の研究対象が人文科学にまで広がったことを受け、プロジェクトにもより広がりが出てきている。コロナ禍のステイホームにおける孤独の問題や、家族支援のあり方についても研究が立ち上がった。さらに、基礎的な研究開発を早く社会へ届けるために2021年度からはプロジェクト募集にあたり「早期実用化枠」も設けられた。松本理事長は「社会とつながる科学が今こそ必要だ」と強調する。

渡邉 力也(わたなべ りきや)

開拓研究本部
渡邉分子生理学研究室
主任研究員
1981年静岡県生まれ。2009年大阪大学大学院工学研究科生命先端工学専攻博士課程修了。博士(工学)。大阪大学産業科学研究所の研究員、東京大学大学院工学系研究科講師などを経て、2018年より現職。

(取材・構成:大岩ゆり/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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