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研究最前線 2021年11月1日

惑星形成シナリオに新展開

惑星の"もと"になる、円盤状に広がるガスの寿命は300万~600万年と理解されてきました。ところが、観測技術の発達に伴い、1,000万年を超える長寿命ガス円盤が、特に2010年代に続々と見つかり、その理由を解き明かす研究が行われています。仲谷崚平基礎科学特別研究員(以下、研究員)は、他の研究者から「そこは盲点だった」と鋭い着眼点を認められるシミュレーション研究で、従来の惑星形成のシナリオに一石を投じています。

仲谷 崚平基礎科学特別研究員の写真

仲谷 崚平(なかたに りょうへい)

開拓研究本部
坂井星・惑星形成研究室
基礎科学特別研究員
1991年福岡県生まれ。2019年東京大学大学院理学系研究科物理学専攻修了。博士(理学)。2019年より現職。

誰も支持しなかった学説

太陽系のような惑星系が形成されるとき、まず星の"もと"になるガスや微粒子が集まり、太陽のように中心となる星(中心星)が生まれる。惑星のもとになるガスや微粒子は円盤状になって中心星を取り囲むが、惑星が成長するとともに中心星から出る紫外線、X線などの光からエネルギーを受け、ガスは蒸発する(図1)。これを「光蒸発」と呼ぶ。

標準的な惑星系形成過程の模式図の図

図1 標準的な惑星系形成過程の模式図

  • (A)ガスや微粒子からなる分子雲の中心部が重力収縮し中心星の形成が始まる。
  • (B)中心星の周囲に原始星円盤が形成される。
  • (C)原始星円盤が原始惑星系円盤となる。その円盤の中で惑星の形成が始まり成長する。
  • (D)円盤中のガスは光蒸発し、(原始)惑星系と、惑星の衝突で生じた微粒子などからなるデブリ円盤ができる。

ところが近年、従来考えられていたより長い、1,000万年を超える長寿命のガス円盤が続々と見つかってきた。ガス円盤の長寿命化を説明する学説には、ガスが長期間維持される「始原ガス(生き残り)説」と、一度形成した原始惑星や微惑星が衝突してガスに戻る「2次ガス(生まれ変わり)説」がある。生まれ変わり説の研究は盛んだが、生き残り説ではうまく説明できないため、ほとんど研究が行われていなかった。

"常識"の盲点をついた研究

仲谷研究員は惑星単体や銀河母天体など、大きさやその天体ができた時代が異なる多様な天体の光蒸発を研究してきた。宇宙研究といっても対象ごとに分野が細分化されており、横断的に扱っている研究者は多くはない。それぞれの対象の光蒸発の条件を厳密に検討した仲谷研究員は、生き残り説が否定される根拠に疑問を抱いた。というのも、観測された長寿命ガス円盤の中心星ではなく、若い中心星の値が使われていたのだ。

若い中心星が出す光は、光蒸発を駆動する効果が高い高エネルギーの光を多く含む。また、円盤に含まれる微粒子の粒径が小さいため、これらの値を使えばガス円盤の寿命は短くなる。「このことが盲点になっていたのです」と仲谷研究員。さらに、省略されていた熱化学反応、流体の動き方、光の輸送の計算を組み込み、世界で最も正確に光蒸発を再現できる計算コードを独自に開発し、シミュレーションを行った。そして、ガス円盤の質量がある程度減った時点から、ガスの減る速度が遅くなるという結果を得た。ガス円盤の寿命は従来の計算結果より10~30倍ほど長く、生き残り説でもガスの長寿命化を説明できる可能性を初めて見いだしたのだ。

ガス円盤が蒸発(光蒸発)するときのガス密度シミュレーション

中心星からのエネルギーでガス円盤が光蒸発する様子を表すガス密度のシミュレーション結果。動画後半の矢印の長さはガス蒸発の速度を表す。シミュレーションの期間は、図1の(C)~(D)の間で、光蒸発がガス蒸発の主要因となる時点から2,600年間。それ以降は同じ速度(質量損失率)での蒸発が続く。

世界でこれほど緻密なガス円盤のシミュレーションを行える研究者はいない、と自信をのぞかせる。第一線での研究に「子どもの頃に憧れた、世界を舞台に競うスポーツ選手に近づけている気がする」と仲谷研究員。「数百年後も使われるような理論を一つでも多く見つけ出したい。まずは、どんな対象にも適応できる光蒸発の理論を確立したい」と抱負を語った。夢は大きい。

(取材・構成:大石かおり/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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