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研究最前線 2022年3月28日

厚さ0.003mm!未来を変える次世代の太陽電池

超薄型の有機太陽電池。その電池を他のデバイスとつなぐ接合部も超薄型にする研究をするうちに、福田憲二郎 専任研究員(以下、研究員)らは、これまで全く知られていなかった抵抗増加0の接合方法を発見しました。この発見は、超薄型有機太陽電池の可能性を広げ私たちの未来の生活を変えるだけでなく、いろいろな業界の抵抗増加問題を解決する可能性を秘めています。

福田 憲二郎の写真

福田 憲二郎(ふくだ けんじろう)

開拓研究本部
染谷薄膜素子研究室
専任研究員
1983年長崎県生まれ。東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻博士課程修了。博士(工学)。山形大学大学院理工学研究科電気電子工学分野助教などを経て、2015年理研入所、2018年より現職。

次世代型太陽電池―有機系太陽電池への期待

屋根の上や広大な敷地などに設置されるソーラーパネル。現在主流のシリコン系太陽電池は、重い、折り曲げられない、製造工程が複雑なためコストが高いなどの短所がある。これらを解消する「次世代型太陽電池」として1990年代から世界中で研究されてきたのが、プラスチック製の有機系太陽電池だ。有機系太陽電池は軽くて薄いため、湾曲した外壁や窓ガラスも太陽光発電の場にできると期待されている。

かつて、有機系太陽電池はシリコン系に比べて発電効率が低いことが最大の課題だった。発電効率とは、太陽光が持つエネルギーをどれだけ電気エネルギーに変換できるかを示す値だ。しかし、2022年1月現在の有機系太陽電池の発電効率最高値は18.2%まで向上。シリコン系(単結晶)の23%に近づきつつある。

くしゃくしゃにしても発電可能

福田研究員は自らの研究を「あり得ないほど薄く、でもしっかり働く有機太陽電池の研究」と説明する。その厚さはわずか0.003mm(図1)。「分厚い紙の束を折り曲げるのは大変ですが、紙一枚なら、いともたやすく曲がります。薄いことで折り曲げやすくなるのです。私たちがつくる太陽電池は、湾曲どころか、くしゃくしゃと握りつぶしても、発電し続けます」と胸を張る。

厚さ0.003mmの有機太陽電池の写真

図1 厚さ0.003mmの有機太陽電池

折り曲げても発電することができる。

通常の柔軟な有機系太陽電池の厚さは0.1mm程度だ。福田研究員がつくる0.003mmは、まさに「桁違い」。これほどの薄さでも発電効率は15.8%を誇る。折り曲げても発電機能がしっかりと持続するのが特長だ。

超薄型にする秘訣

福田研究員はどのようにしてそれほど薄い太陽電池をつくり上げたのだろうか。主に二つの工夫がなされている。

一つ目は、製造工程での工夫だ。超薄型の有機太陽電池は、ガラスの上にポリマー(高分子)で超薄型基板を形成して、その上にさまざまな機能を担う層をいくつも積み重ねた後、ガラスから剥がしてつくる。非常に薄いフィルム状なので剥がす工程で破れやすい。そこで、こびりつかないフライパンに使われるようなフッ素樹脂を、ガラスにコートして、剥がれやすくしている。ただし、その「剥がれやすさ」は度が過ぎると、積み重ねる層をつくるための液体をはじいてしまい、液体が均一に広がりにくくなる。これでは望みの厚さの層をつくれない。「ガラスに塗布しやすいが、太陽電池は剥がれやすい」最適なフッ素樹脂を探し出したのだ。

二つ目は、材料面での工夫だ。以前はパリレンというポリマーを使っていたが、このポリマーは表面の凹凸が大きい上に熱を加えたときの変形が大きい。熱に強く、薄い層にしても表面が粗くなりにくいポリマーを探索し続けた結果、透明ポリイミドにたどり着いた。電池表面が平坦になったことで発電効率が高まった。
さらに発電を担う半導体ポリマーにも発電効率の高い分子構造を取り入れ、15.8%の発電効率を実現した。

皮膚に貼れて、太陽電池で動く心拍計測デバイス

薄くて耐熱性があり、折り曲げ可能な太陽電池をつくった福田研究員は「この太陽電池をどのような場面で使うと、その強みを生かせるのか、それを示すことも必要だと考えています」と語る。

その代表例が2018年に科学雑誌『Nature』に発表した皮膚に貼れる心電計測デバイスだ(図2)。

超薄型有機太陽電池で動く超薄型心電計測デバイスの写真

図2 超薄型有機太陽電池で動く超薄型心電計測デバイス

太陽電池は、光が斜めに入ると発電効率が低下する。そこで福田研究員は、折り曲げ可能な超薄型有機太陽電池の特長を生かして、700ナノメートル(nm、1nmは10億分の1m)の周期で微細に波打った状態(ナノグレーティング構造)で層をつくった(図3)。波打つことで光の入射角度の影響を受けにくくなり、心電計測デバイスを動かすのに十分な発電が可能となった。

ナノグレーティング構造の写真

図3 ナノグレーティング構造

電子輸送層は半導体ポリマー層で生成された電子(-)を陰極に、正孔輸送層は半導体ポリマー層で生成された正孔(+)を陽極に輸送させる層。

超薄型電子デバイスを抵抗増加0でつなぐ方法を発見!

だが、福田研究員は、この心電計測デバイスに一つの問題点を感じていた。「デバイスと電池を別々につくり、電気回路を組むようにつなげなければ将来的に困る」。開発した心電計測デバイスは太陽電池と一体型のデザインのため、どちらか一方に不具合が生じたら、全てをつくり直さなければならない。

別々につくるなら、二つをつなぐ技術が必要となる。そこで、ポリマーを接合できることで知られる水蒸気プラズマ処理を試したところ、ポリマー部ではなく、電池とデバイスをつなぐための金電極部分がくっつくという、電気回路には願ってもない結果となった。材料開発の分野でも知られていない、世界初の発見だった。

研究を重ねると、水蒸気プラズマ照射によって金表面に水酸基(-OH)が生じていると分かった。この状態で、金電極同士を密着させて常温常圧で一晩放置するだけで、金属結合でつながってくれる(図4)。

超薄型有機太陽電池と水蒸気プラズマ処理で金接合した有機LEDの写真

図4 超薄型有機太陽電池と水蒸気プラズマ処理で金接合した有機LED

超薄型有機太陽電池(左下)によって有機LED(右上)が黄色く光っている。赤丸の内面で電池とデバイスが金接合している。

従来は、電気を通す物質を分散させたテープで電極を接合していたが、この方法では、テープでとめた部位が分厚くなってしまい、曲がりにくくなったり、電気抵抗が上がってしまったりした。しかし、水蒸気プラズマによる接合は、厚みが増さないため曲がりやすく、接合前後で電気抵抗の変化もない。

福田研究員は「この接合技術を求めている業界は他にもあるはず。想像もしないような分野でも発展してほしいですね」と目を輝かせる。

超薄型有機太陽電池の基礎研究に打ち込みながら、自らの電池の強みを示すための共同研究をしてきた福田研究員。最後に「次は"伸びる"超薄型有機太陽電池を生み出したい」と今後の抱負を語った。

(取材・構成:大石かおり/撮影:相澤正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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