地球上には90種類ほどの天然の元素が存在していますが、これらのうち原子番号26の鉄より重い元素(重元素)が宇宙の歴史の中でどのように合成されたのかは、まだよく分かっていません。西村 俊二 先任研究員は、理研和光地区にある重イオン加速器施設「RIビームファクトリー(RIBF)」での実験で、この謎に迫る成果を次々に挙げています。大勢の研究者が関わる加速器実験を成功させる秘訣は、コーディネート力とユーモアのセンスのようです。
西村 俊二(ニシムラ・シュンジ)
仁科加速器科学研究センター RI物理研究部
先任研究員
カギを握る高精度の検出器
中学生の頃、アインシュタインが好きな同級生が多かったので、その影響で物理学者になりたいという夢を抱きました。また、夜空が暗く星がきれいに見えるところで育ったので、星に関係する仕事をしたいなとも思っていました。今の私は、まさにその延長線上にいます。
宇宙の歴史の中では、まず水素やヘリウムができ、それらが星の中で核融合して軽い元素ができたことが分かっています。しかし、重元素については、ある種の超新星や連星中性子星などが合成の場として提案されていますが、宇宙で実際に観測される元素の存在比率を説明できるような定説はまだなく、混沌とした状況です。そこで私たちは、重元素合成の過程でできたと考えられる不安定原子核(RI)をつくり、その寿命や崩壊エネルギーを調べています。こうしたデータを積み重ねて元素の存在比率を解析することで、重元素合成メカニズムの検証が可能になります。
RIBFでの実験では、加速した原子核を標的の原子核に当ててRIをつくり、そのRIを検出器で受け止めて測定を行います。これまでに、「WAS3ABi(ワサビ)」「NiGIRI(ニギリ)」「CAITEN(カイテン)」など、測定目的に応じてさまざまな検出器を開発してきました。全てに寿司にちなんだ名前をつけたのは遊び心からです。日頃から「他の研究者よりいい結果を出したい」と思っており、精度よく測定できる検出器をつくるためのアイデアを練っています。頭の中でアイデアを何度も検証し、「いける」となってからつくり始めます。狙った通りの測定ができるのは、こうして最初の設計をしっかり詰めているからだと思っています。
コーディネート力が実験成功の鍵
RIBFの加速器を運転して実験するのには理研内外、国内外問わず多くのメンバーが関わり、準備期間も費用もかかります。そのため、1回の運転でさまざまな実験が行えるよう、綿密に計画を立てる必要があります。重元素合成を研究するためにRIの質量を測定したいという人もいますし、別の研究のためにRIのビームを私たちの検出器で受ける前に調べたいという人もいます。実験の全体を見ながら、こうした希望をコーディネートするのも私の仕事です。測定したデータが複数の研究に使える場合もあるので、どの研究者に渡すかという配分にも心を砕きます。参加者全員がハッピーになれるようにと考えているためか、結果的に実験が失敗したことはありません。
夢は、大発見をすることです。重元素の合成メカニズムについて既存の理論を検証するだけにとどまらず、まだ理論家が気付いていない新たなメカニズムを発見したいと思っています。そのために、新たな実験の計画や、他分野の研究者とのコラボレーションを着々と進めているところです。
(取材・構成:青山 聖子/撮影:相澤 正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)
関連リンク
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