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2021年12月8日

理化学研究所

春先に出荷可能な温州みかんの作出に成功

理化学研究所(理研)は、仁科加速器科学研究センターの理研リングサイクロトロンから発生する重イオンビーム[1]による変異誘発技術[2]を用いて、温州みかんの新品種の作出に成功しました。これは、飛程の長いさまざまなイオンビームを発生できた理研仁科加速器科学研究センターと温州みかんの育種技術のノウハウを持つ静岡県の共同開発による成果です。

理研と静岡県は共同で、農林水産省に「春しずか」として6月28日に品種登録出願し、11月22日に出願公開されました注1)

静岡県は国内有数の温州みかんの産地ですが、その大半が「青島温州」です。そのため、収穫や出荷などの作業が一時期に集中し、生産農家にとって大きな負担となっています。一方で、温州みかんは近年、地球温暖化の影響による果実品質の低下も問題となっています。そこで研究チームは、これらの問題を解決するため新たな品種の育成に着手しました。

2000年、静岡県が育成した「青島温州」の優良系統「S1152」の穂木[3]に、重イオンビームの照射実験を開始しました。2001年にネオンイオン(135AMeV)を20Gy(グレイ)照射し、2004年に接ぎ木・育成した苗木約100本を露地圃場に定植したところ、2006年に初めて結実しました。そして2009年の一次選抜と2011年の二次選抜を経て「S1200」系統が育成され、2018年の最終選抜により新品種を得ました。静けさの中でゆっくりと熟成され、春の暖かい陽ざしの中で目覚めを迎えるイメージから、「春しずか」と名付けました。

「春しずか」は、果実の色付きが遅い特徴があり、青島温州より1ヶ月程度収穫時期をずらすことが可能で、収穫労力を分散できます。また、食味の低下や腐敗の原因となる浮皮の発生が少ないため貯蔵性が高く、長期貯蔵も可能です。その名が示す通り、近年マーケットニーズが高まっている3月から4月に良質の果実が出荷できます。

温州みかん「S1200」系統の果実の写真

温州みかん「S1200」系統の果実(2021年3月下旬)

関連リンク:静岡県/記者提供資料 春先に出荷可能な温州みかん「春しずか」を開発~温州みかん「S1200」が「春しずか」の名称で品種登録出願公表されました~

補足説明

  • 1.重イオンビーム
    原子から電子をはぎ取って作られたイオンのなかで、ヘリウムイオンより重いイオンを重イオンと呼ぶ。これを、加速器を用いて大量に加速したものを重イオンビームと呼ぶ。
  • 2.重イオンビームを用いた突然変異誘発法
    ほかの有用形質に影響を与えず変異を誘発し、育種年限の大幅な短縮を可能とする日本初の独自技術。この技術を用いて、海水の30%程度の塩分濃度の塩害水田でも育成可能なイネや、強風でも倒伏しないソバの品種改良にも成功し、海水でも育成可能な植物や有害物質を吸収する植物など食料問題、環境問題などを解決する高機能変異体の創出が期待されている。なお、阿部知子チームリーダーらは2009年6月に「重イオンビームを用いた新しい育種法の開発」の業績により第7回「産学官連携功労者表彰 文部科学大臣賞」を受賞。2021年には、イオンビームを用いた突然変異育種技術に関する功績が評価され、国際連合食糧農業機関(FAO)および国際原子力機関(IAEA)よりWomen in Plant Mutation Breeding Awardが授与された。
  • 3.穂木
    接ぎ木は果樹類で広く用いられている増殖法であり、台木と穂木が用いられる。接がれるほうが台木、接ぐほうが穂木であり、枝が用いられる。

研究チーム

理化学研究所 仁科加速器科学研究センター
イオン育種研究開発室 生物照射チーム
チームリーダー 阿部 知子(あべ ともこ)
加速器基盤研究部 運転技術チーム
チームリーダー 福西 暢尚(ふくにし のぶひさ)

静岡県農林技術研究所 果樹研究センター

研究支援

本研究は、文部科学省放射線利用・原子力基盤技術試験研究推進交付金事業の支援を受けて行われました。

発表者

理化学研究所
仁科加速器科学研究センター イオン育種研究開発室 生物照射チーム
チームリーダー 阿部 知子(あべ ともこ)

機関窓口

理化学研究所 広報室 報道担当
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