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2018年7月20日

理化学研究所

天の川銀河を包むプラズマの起源を解明

-銀河内の物質循環システムの一翼を担う-

理化学研究所(理研)開拓研究本部玉川高エネルギー宇宙物理研究室の中島真也基礎科学特別研究員と数理創造プログラムの井上芳幸上級研究員らの国際共同研究グループは、天の川銀河[1]を包む高温プラズマ[2]の性質と空間分布を調べ、その起源が銀河円盤部からの噴き出しであることを明らかにしました。

天の川銀河を構成する要素は、私たちの目(可視光)に見える星だけではありません。X線を使って観測すると、数百万度もの高温プラズマが天の川銀河全体を包み込んでいる様子が見えます。しかし、この高温プラズマの起源は、これまでよく分かっていませんでした。

今回、国際共同研究グループは、日本のX線天文衛星「すざく」[3]を用いて、全天100カ所以上の観測データを解析し、高温プラズマの温度・密度・元素組成などの物理的性質を調べました。その結果、銀河内で起きた「超新星爆発[4]」により加熱された高温プラズマが、銀河の随所から噴き出していることを解明しました。この高温プラズマはゆっくりと冷えて再び銀河の中へ戻っていくことから、銀河内の物質循環に重要な役割を果たしていると考えられます。

本研究は、米国の科学雑誌『The Astrophysical Journal』オンライン版(7月20日付け)に掲載されます。

天の川銀河から高温プラズマが噴き出し、銀河全体を包み込んでいる様子の想像図の画像

図 天の川銀河から高温プラズマが噴き出し、銀河全体を包み込んでいる様子の想像図

※国際共同研究グループ

理化学研究所
開拓研究本部 玉川高エネルギー宇宙物理研究室
基礎科学特別研究員 中島 真也(なかしま しんや)
数理創造プログラム
上級研究員 井上 芳幸(いのうえ よしゆき)

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所(ISAS/JAXA)
教授 山崎 典子(やまさき のりこ)

東京大学大学院理学系研究科 天文学専攻
名誉教授 祖父江 義明(そふえ よしあき)

早稲田大学理工学術院 先進理工学研究科 物理学及応用物理学専攻
教授 片岡 淳(かたおか じゅん)

アメリカ航空宇宙局(NASA) ゴダード宇宙飛行センター(GSFC)
研究員 酒井 和広(さかい かずひろ)

※研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金若手研究B「天の川銀河中心からの高温ガスアウトフロー解明(研究代表者:中島真也)」の支援を受けて実施されました。

背景

夜空を横切る天の川。その正体は数千億の星が集まってできた一つの銀河(天の川銀河)です。私たちがいる太陽系も天の川銀河に含まれる星の一つですが、天の川銀河を構成する要素は星だけではありません。X線を使って観測すると、数百万度の高温プラズマが天の川銀河全体を包み込んでいる様子が見えます(銀河ハロー高温プラズマ)。しかし、この高温プラズマは希薄でX線強度が弱いため、物理的性質を観測することが難しく、その起源はこれまでよく分かっていませんでした。

その状況を打破したのが、日本のX線天文衛星「すざく」です。「すざく」は広がったX線放射に対して過去最高の感度を持つため、高温プラズマの温度・密度・元素組成といった物理的性質を正確に決定することができます。

研究手法と成果

国際共同研究グループは、「すざく」が10年間にわたって蓄積した107の観測データをまとめて解析し、全天のあらゆる方向で、銀河ハロー高温プラズマの物理的性質を調べました(図1左図)。図1右図は、実際に観測されたX線スペクトルの典型的な例です。赤色の線が本研究の対象である「銀河ハロー高温プラズマ」のスペクトルモデルであり、その形状から、温度や密度、元素組成といったプラズマの性質を知ることができます。ほかにも「太陽系近傍に存在するプラズマからの放射」や「天の川銀河外の活動銀河[5]からの放射の重ね合わせ」といった成分が混在していますが、スペクトル形状の違いからそれらを分離することができています。

図2左図は、スペクトル解析から得られた、銀河ハロー高温プラズマ中の鉄に対する酸素の元素量比を示しています。場所ごとにばらつきはあるものの、平均的には、大質量星が「超新星爆発」を起こした際に生成される元素の組成に近いことが分かりました。また図2右図は、高温プラズマの放射強度指標の空間分布です。銀河の円盤部から離れるにしたがって、ゆるやかに減少していることが分かります。このような空間分布は、「円盤状のプラズマ分布」に特徴的で、円盤の典型的な厚みは6,000光年程度であることが分かりました。以上の結果から、銀河ハロー高温プラズマは、銀河の中で起きた超新星爆発によって高温プラズマが生成され、それが銀河の外へ噴き出したものだと考えられます。

噴き出した高温プラズマは約10億年という時間をかけてゆっくりと冷え、再び天の川銀河に落ちていき、次の世代の星を作る材料になると考えられます。天の川銀河では、このような高温プラズマを介した銀河内での物質循環(リサイクル)が過去から脈々と続き、現在の姿に至ったと考えられます。

今後の期待

「すざく」は2015年に観測運用を終了しましたが、その後継として、私たちは現在、2020年度に打ち上げ予定の新しいX線天文衛星「XRISM」を開発中です。「XRISM」には「すざく」の30倍のエネルギー分解能を持つ観測装置を搭載予定で、銀河ハロー高温プラズマの元素組成をさらに詳しく調べることが可能になります。

また、今後、天の川銀河だけでなく、他の銀河でも同様のプラズマの噴き出しがあるかを探っていきたいと考えています。

原論文情報

  • Shinya Nakashima, Yoshiyuki Inoue, Noriko Yamasaki, Yoshiaki Sofue, Jun Kataoka, and Kazuhiro Sakai, "SPATIAL DISTRIBUTION OF THE MILKY WAY HOT GASEOUS HALO CONSTRAINED BY SUZAKU X-RAY OBSERVATIONS", The Astrophysical Journal, 10.3847/1538-4357/aacceb

発表者

理化学研究所
主任研究員研究室 玉川高エネルギー宇宙物理研究室
基礎科学特別研究員 中島 真也(なかしま しんや)

数理創造プログラム
上級研究員 井上 芳幸(いのうえ よしゆき)

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  • 1.天の川銀河
    太陽系を含む私たちの銀河。銀河系ともいう。数千億個の恒星が含まれ、棒状渦巻銀河に分類されており、中心には大質量ブラックホールがある。約132億年前に誕生した。
  • 2.プラズマ
    原子が電離して、陽イオンと自由電子に分かれた状態。
  • 3.X線天文衛星「すざく」
    日本を中心とする国際協力で開発した、天体から放射されるX線を観測するための衛星。理化学研究所も主要な開発・運用メンバーである。2005年に内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられ、多くの科学成果を創出したが、バッテリー劣化の影響で2015年に観測運用を終了した。
  • 4.超新星爆発
    星が一生の最後に起こす大爆発。大質量星が爆発する場合(重力崩壊型)と、白色矮星が爆発する場合(核暴走型)の2種類があり、それぞれで合成される元素の組成が異なる。
  • 5.活動銀河
    銀河の中心にある大質量ブラックホールから莫大なエネルギーが放出され、明るく輝いている銀河。
X線天文衛星「すざく」による観測点とX線スペクトルの図

図1 X線天文衛星「すざく」による観測点とX線スペクトル

  • (左) 全天における「すざく」の観測点。合計107カ所の観測を行った。
  • (右) 典型的な1観測におけるX線スペクトル。赤が銀河ハロー高温プラズマからの放射モデル。この形状から、温度・密度・元素組成などのプラズマの性質が分かる。
銀河ハロー高温プラズマの起源は超新星爆発の図

図2 銀河ハロー高温プラズマの起源は超新星爆発

  • (左) 各観測における、鉄に対する酸素の存在比の頻度分布。青線は大質量星の超新星爆発を主たる成分と仮定した場合の元素組成モデル。
  • (右) 銀緯(銀河の緯度)に対する銀河ハロー高温プラズマの放射強度指標の空間分布。赤のデータ点は灰色のデータ点を平均化したもので、右下がりの傾向が青線で示した円盤状の分布モデルと一致する。

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