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研究最前線 2023年6月2日

早く、正確に!手法の改良につながった解析の日々

バイオリソース研究センターでは多くのテクニカルスタッフが技術支援を行い、研究活動に幅広く貢献しています。その一人が、「微生物に着目しながら農業の発展に貢献したい」と願う植物-微生物共生研究開発チームの熊石 妃恵 テクニカルスタッフⅡ。仕事に向き合う姿勢や初めての論文執筆の体験などについて話を聞きました。

熊石 妃恵の写真

熊石 妃恵(クマイシ・キエ)

バイオリソース研究センター 植物-微生物共生研究開発チーム
テクニカルスタッフⅡ

テクニカルスタッフを志したきっかけ

研究職を目指すようになったのは、小学生の頃に見たテレビドラマがきっかけだ。「家庭菜園が好きな高校生が植物の品種改良技術を知る場面があり、同時に私も農業や生物学に興味を持ちました」。専門学校に進学し、卒業研究の一貫で理研の植物免疫研究グループに研修生として在籍。そこで実験指導を受けた体験が大きく影響し、技術的支援により研究現場を支えようと決心した。2018年に、現在の研究室が始動するタイミングで市橋 泰範 チームリーダーから誘いを受け、テクニカルスタッフとして着任した。

研究結果の成否を握るデータ解析

所属する研究室では植物、微生物、土壌の関係性をオミックス解析で明らかにし、農業現場を仮想空間で再現するためのデジタルツイン開発を行っている。大学や農業総合センターからさまざまな植物の葉や根、土壌が大量に届く。熊石 テクニカルスタッフⅡは主にダイズのサンプルについて、葉でどんな遺伝子が発現しているか、根の内部や根圏土壌にどのような微生物がいるのかを解析する業務を担当している。

各地から送られてくるサンプルは、その時期のその土地における農作物や共生微生物の状態を知るための貴重なものばかりだ。「予備のサンプルがないものもありますし、DNAの抽出方法や分析装置の扱い方によって、得られるデータ量や質にばらつきがはっきりと出てしまいます。正確なデータが出せるよう、一つ一つ集中して作業に当たっています」

花が咲く前のダイズの図

図1 花が咲く前のダイズ

鳥取大学 乾燥地研究センターの砂地圃場で人工的に干ばつ環境をつくり、多くのダイズ品種を用いた栽培試験の様子。核酸の分解を防ぐため素早くサンプル回収を行う必要がある。

データには正確性だけでなく、データを出す早さも求められる。「大学や企業との共同研究では、先方の研究機関が出したデータと統合して解析します。私たちが出すデータを待っている人がいるため、日頃から良いデータを早く出せるように心がけています」

初めての論文執筆にも挑戦

2022年11月、熊石 テクニカルスタッフⅡが筆頭著者となった論文が学術雑誌『サイエンティフィック・リポーツ』に掲載された。論文では、植物の根や土壌中に含まれる微生物のDNAを抽出して解析する手法改良に成功したことを報告した。「英語で論文を書き、投稿するのは初めての経験でした。日々の業務の合間に執筆作業を行い、数年がかりでようやく掲載されました。研究室の皆さんからお祝いしてもらったときには、本当に嬉しかったです」

テクニカルスタッフが論文を執筆するのは異例だ。日々の解析業務を通した研究への貢献と投稿した論文などが評価され、所内で若手を表彰する桜舞賞(技術奨励賞)も受賞した。

「私は理研のような国の研究機関の存在やテクニカルスタッフという職業があることを、高校生まで知りませんでした。研究活動に貢献できる仕事は研究者以外にもたくさんあります。少しでも興味を持ってくれた中高生は、研究所の施設公開などのイベントに気軽に参加してほしいですね」

(取材・構成:福田 伊佐央/撮影:相澤 正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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