生成AIの進化に注目が集まるなか、理研ではAIを使って「校歌」をつくるユニークなプロジェクトが進んでいます。作詞、作曲の専門家に限らず、さまざまな人たちが携わってきた、歴史ある日本特有の学校文化「校歌」。この校歌というお題に対し、最先端のAIはどう答えるのでしょうか?
革新知能統合研究センター 目的指向基盤技術研究グループ
知識獲得チーム
(左)松本 裕治(マツモト・ユウジ)チームリーダー
(中)重藤 優太郎(シゲトウ・ユウタロウ)客員研究員
音楽情報知能チーム
(右)浜中 雅俊(ハマナカ・マサトシ)チームリーダー
歌詞生成AIと楽曲生成AIのコラボレーション
「今回のプロジェクトでは、先に歌詞をAIで自動生成し、その上に楽曲をのせていく方法を選択しました。"自由" "伝統"など雰囲気を表すキーワード、"小学校" "中学校"といった学校の種類を入力するとAIがベースとなる歌詞を生成し、それを人間が編集して仕上げていきます」と歌詞生成を担当する松本 裕治 チームリーダー。独自開発した歌詞生成AIは、Transformerと呼ばれる深層学習モデルをベースに構築されている。
「歌詞生成AIには、既存の校歌800曲の歌詞に加え、J-POPなど約20万曲の歌詞データを購入して学習させました。データセットとして800曲では足りないという理由もありますが、J-POPなどの歌詞を学習させることで、自然な歌詞を実現しました。さらに、校歌には必須の学校周辺の地名なども入るようにチューニングしています」と歌詞生成AIの基盤となる深層学習モデルを開発した重藤 優太郎 客員研究員。日本語かつ校歌というニッチなジャンルだけに、独特な工夫が必要だったという。
でき上がった歌詞にのせる楽曲生成を担当したのは、浜中 雅俊 チームリーダーだ。研究のベースになっているのは、20年ほど前から開発を進めている音楽の構造分析を行う深層学習モデル「GTTM※」だ。ここでは、既存の校歌のメロディーデータに、GTTMを使ったクラシックやポップスの分析データを加えて、楽曲をAIに学習させている。「GTTMの構造分析を基盤としたメロディーを軸として、その一部に変更を加えていく工程で、その書き換え候補をAIが提示することで、音楽的な構造を崩さずに誰でもメロディーの編集ができるようになることを目指しています。音楽の構造分析と自動生成は全く逆の工程なので、新たな挑戦です」
- ※GTTM:Generative Theory of Tonal Music。今回のプロジェクトでは、深層学習を用いたバージョン「DeepDTTM4」を使っている。
図1 GTTMを用いた楽曲生成プログラム
基本となるメロディーの書き換え候補をAIが提示することで、音楽的な構造を崩さずにだれでもメロディーの編集ができる仕組みを目指している。
国内初、新設校のAI校歌づくりがスタート
2023年10月には理研と三重県桑名市、情報経営イノベーション専門職大学で連携協定を結び、その一環として桑名市に2026年開校予定の公立小中一貫校である多度学園で校歌をAIでつくる取り組みがスタートした。現在、歌詞ができ上がり、そこに楽曲をのせていく段階だという。「AIで自動生成といっても、ボタン一つで曲ができ上がるわけではありません。大部分はAIが生成しますが、細かいチューニングをして芸術性を上げていくのは、AI時代になっても人間の仕事です。そのため、歌詞および楽曲生成のプログラムを一般の人でも操作できるインターフェースを現在プロジェクトチームで開発中です」(浜中 チームリーダー)
AIとのコラボレーションによって、誰でも楽曲づくりが手軽にできる時代がすぐそこまで近づいている。2026年の開校に向けて、どのような校歌が生まれるのか、楽しみだ。
(取材・構成:丸茂 健一/撮影:相澤 正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)
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