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特集 2024年11月1日

研究者の多様性で高める最先端研究の創造性

理研は、2018年度から2024年度の第4期中長期計画の一つとして、「研究者のダイバーシティ(多様性)の推進」を掲げています。仲 真紀子 理事は、2022年4月の着任以来、この目標の達成に向け、さまざまな取り組みを実施してきました。ダイバーシティの重要性と、推進のための取り組みについて語る言葉には、一人の女性研究者、心理学者としてのキャリアに裏打ちされた強い思いがにじみます。

仲 真紀子の写真

仲 真紀子(ナカ・マキコ)

理事

ダイバーシティが重要な理由

ダイバーシティとは、ある集団の中にさまざまな属性を持つ人たちが共存し、互いを尊重し合う状態を指す。これからの社会のあり方を考える上でも、ビジネスにおいても重要な概念だが、仲 理事はダイバーシティがとりわけ理研にとって重要である理由を三つ挙げた。

一つめは「ダイバーシティが研究の創造性を高めるからです。研究者たちが、異なる分野のスキルや視点、ジェンダーや年齢に基づくさまざまな背景や経験、さらに言語、人種、文化の違いを持つことで、それらが互いに刺激し合い、融合し、創造性が自然と引き出されます。理研が目指す新しい知の創造やイノベーションには、多様性が非常に重要です」

二つめは「今後日本の人口が減少していく中で、多様な人材を活用しなければ研究活動を維持できなくなる恐れがあるからです。現状では、理研のPI(Principal Investigator、研究室主宰者)の約9割が日本人男性ですが、女性や外国人をもっと起用すればより多くの人材を確保できます」

そして三つめは「例えば女性が研究を続けたいと思いながら、育児との両立のしにくさやポスト獲得の難しさなどの社会的、歴史的なバリアによって果たせないという不平等があるなら、それは是正されるべきだからです」

こうした理由から、理研ではさらなるダイバーシティ推進に向けて、多様な研究者のすそ野を広げるため、若手研究者を早い段階から育成すること、外国人研究者の国籍を多様化すること、女性研究者を増やすことを主な柱とし、研究者に対してさまざまな支援を行っている。

理研が取り組む独自の若手研究者育成

若手研究者の育成・支援制度として、2023年度から始まったのが理研Early Career Leaders(ECL)制度だ。2017年に創設した理研白眉制度を発展させたもので、優秀な若手研究者に十分な研究費を支給するなどの支援を行い、若いうちからPI(チームリーダーまたはユニットリーダー)として研究を率いる機会を提供する。

理研には、学生からPIまでの若手を一貫して育成するシステムが整っており、理研ECL制度は、その最終段階に位置付けられる。「多くの大学から学生を研修生や実習生として受け入れてきましたし、将来国内外で活躍する優れた若手研究者の育成を目的として、博士後期課程の学生は大学院生リサーチ・アソシエイト(JRA)制度、ポスドクは基礎科学特別研究員(基礎特)制度を設け支援しています。昨年度からは、給与の増額に加え、基礎特への研究費の増額やJRAへの国際学会参加経費の支援など、立場に応じた支援の拡充も進めています。また、JRAや基礎特と若手PIたちの交流などキャリアアップにつながる機会の提供にも力を入れています(図1)」

若手研究者たちの交流イベント、Discovery Evening(ディスカバリー・イブニング)の図

図1 若手研究者たちの交流イベント、Discovery Evening(ディスカバリー・イブニング)

2024年4月19日に、和光地区にて開催された「Discovery Evening」の様子。このイベントは、JRAや基礎特、ECLなどの若手研究者が交流する機会として年に数回開催されている。研究者たちは自身の研究内容をまとめたポスターの前で、自由闊達に議論を交わしていた。

外国人研究者の支援では、生活環境の整備にも力を入れている。着任時の住まい探しに始まる日常生活のさまざまな支援を行うほか、所内の文書や連絡事項を英語化したり、宗教上の習慣に対応したりと、地道な活動が多い。「現在、外国人研究者の比率は約27%で、国内の研究機関の中でも高いほうだと思います。また、国内あるいは海外の大学院・研究機関との連携協定・覚書に基づいて、理研において学位取得のために研究指導を望む大学院博士課程の留学生を、国際プログラム・アソシエイト(IPA)として積極的に受け入れたいと考えています。今後も地域や国籍の多様性をさらに引き上げていきたいところです」

女性PIを増やすために

理研では全職員を対象に、仕事と育児・介護の両立支援のための充実した制度を整えており、妊娠・育児・介護中に支援者を雇用する経費や研究費の助成なども行っている。特に女性研究者を支援するため、理研ECL制度の開始に合わせて、公募対象を女性に限定した「加藤セチプログラム」を設けた(このプログラム名は理研初の女性主任研究員の名前にちなんでいる)。さらに、新たに着任する女性PIには、初年度の研究予算を追加で助成する制度を実施している。こうした理研全体での継続的な取り組みの結果、「今中長期計画の7年間で、在籍した女性PIの累計数は、目標の45名を超えて47名となりました」

和光地区の事業所内託児施設「りけんキッズわこう」の図

図2 和光地区の事業所内託児施設「りけんキッズわこう」

仕事と育児の両立のために2004年に設置された。保育時間が長い、理研で勤務している外国人研究者の子どもが在園しているため国際色豊かである、などの特徴があり、常時10人ほどが利用している。他地区にも同様の施設がある。

ところが残念なことに、意欲的な取り組みの数々も女性PIの増加にはつながっていない。その理由を仲 理事は次のように分析する。「理研は、社会から要請される研究テーマの変遷に応じるため、『国際頭脳循環(人材流動)』をビジョンとして掲げ、大学等への転出を後押ししている、というのが一つです。一方で、子育て世代の研究者、特に女性研究者にとって、環境の変化に伴う負担は決して軽いものではありません」。そこで、理研ECL制度では、男女とも着任から5年目に、無期雇用PIに転換するための審査を受けられる道を設けた。

心理学者である仲 理事は、PIの選考プロセスにおける「無意識のバイアス」が低減されるようにと、選考委員にe-ラーニングでの研修を行うことを考えているという。無意識のバイアスとは自分では気付かない「ものの見方の偏り」のことで、採用や昇進に関わる意思決定においても、例えばジェンダーや国籍などの点で無意識のバイアスが働き得ることが示されている。

そして、人文科学に分類されることの多い心理学の立場から、理研の研究分野のダイバーシティも気にかけている。「科学技術・イノベーション基本法の対象には『人文科学のみに係る科学技術』も含まれていますから、理研にも各センターの自然科学研究と関連する人文社会系の研究チームを設置できないかと模索しているところです」という。仲 理事自身が、理研に着任する以前から「法と心理学」という異分野連携の研究会を立ち上げ、成果を上げてきた経験に裏打ちされた言葉だ。

「理研の研究施設・設備は素晴らしいですが、やはり一番の宝は『人』です」と語る仲 理事。年齢、国籍、ジェンダー、それに分野のダイバーシティ推進のため、精力的に活動を続ける。

(取材・構成:青山 聖子/撮影:相澤 正。/制作協力:サイテック・コミュニケーションズ)

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