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2019年8月26日

理化学研究所

思春期特発性側弯症の発症に関わる遺伝子座を同定

-世界最大規模の研究コホートで解明進む-

理化学研究所(理研)生命医科学研究センター骨関節疾患研究チームの稲葉(黄)郁代上級研究員、大伴直央大学院生リサーチ・アソシエイト(慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程)、池川志郎チームリーダーらと慶應義塾大学医学部整形外科学教室を中心とした日本側彎(そくわん)症臨床学術研究グループの共同研究グループは、日本人集団の遺伝情報を用いた大規模なゲノムワイド関連解析(GWAS)[1]を行い、思春期特発性側弯症(Adolescent idiopathic scoliosis:AIS)の発症に関わる疾患感受性領域(遺伝子座)を新たに14カ所同定しました。

本研究成果により、AISの遺伝的要因の解明がさらに進めば、各個人それぞれに対応した画期的な治療法や診断予測モデルの開発につながると期待できます。

AISは、脊椎が三次元的にねじれていく原因不明の疾患の一つで、10歳以降の主に女児が発症し、有病率は2~3%に上ります。

今回、共同研究グループは、日本人集団(AIS患者5,327人、非患者73,884人)におけるAISの大規模GWASのメタ解析[2]を行いました。これは、AISに関する研究コホート[3]としては世界最大規模です。その結果、AIS発症に関わる新しい遺伝子座を14カ所同定し、さらに女性AIS患者のみを対象とした層別化解析により、女性のAIS発症に関わる遺伝子座を3カ所同定しました。また、同定された14遺伝子座の一つ、22番染色体上の転写因子[4]TBX1[5]の遺伝子内に存在する一塩基多型(SNP)[6]について解析し、このSNPを持つ患者に多い対立遺伝子[7]はTBX1の発現を低下させることが分かりました。さらに、遺伝統計学的手法を用いた解析により、AISが六つの組織あるいは細胞種に関連すること、BMI[8]や尿酸値と共通の遺伝的背景[9]を持つことが明らかになりました。

本研究は、英国のオンライン科学雑誌『Nature Communications』(8月15日付け)に掲載されました。

※共同研究グループ

理化学研究所 生命医科学研究センター
骨関節疾患研究チーム
上級研究員稲 葉(黄) 郁代(いなばいくよ)
大学院生リサーチ・アソシエイト 大伴 直央(おおとも なお)
(慶應義塾大学大学院 医学研究科 博士課程)
チームリーダー 池川 志郎(いけがわ しろう)
ゲノム解析応用研究チーム
チームリーダー 寺尾 知可史(てらお ちかし)
基盤技術開発研究チーム
チームリーダー 桃沢 幸秀(ももざわ ゆきひで)

日本側彎症臨床学術研究グループ
慶應義塾大学 医学部 整形外科学教室
教授 松本 守雄(まつもと もりお)
教授 中村 雅也(なかむら まさや)
准教授 渡邉 航太(わたなべ こおた)
専任講師 八木 満(やぎ みつる)
専任講師 藤田 順之(ふじた のぶゆき)
専任講師 岡田 英次朗(おかだ えいじろう)
助教 高橋 洋平(たかはし ようへい)(研究当時)
助教 小倉 洋二(おぐら ようじ)(研究当時)
研究員 武田 和樹(たけだ かずき)

名城病院 整形外科
脊椎脊髄センター長 川上 紀明(かわかみ のりあき)

豊田厚生病院 整形外科
脊椎外科部長 辻 太一(つじ たいち)

聖隷佐倉市民病院 整形外科
名誉院長 南 昌平(みなみ しょうへい)
院長補佐 小谷 俊明(こたに としあき)
せぼねセンター長 佐久間 毅(さくま つよし)

聖マリアンナ医科大学 整形外科
病院教授 赤澤 努(あかざわ つとむ)

神戸医療センター 整形外科
院長 宇野 耕吉(うの こうき)
医長 鈴木 哲平(すずき てっぺい)

神戸大学医学部 整形外科学教室
特命教授 西田 康太郎(にしだ こうたろう)
助教 角谷 賢一朗(かくたに けんいちろう)

北海道医療センター 整形外科
総括診療部長 伊東 学(いとう まなぶ)

北海道大学大学院 医学研究院 整形外科学教室
特任准教授 須藤 英毅(すどう ひでき)
特任助教 岩田 玲(いわた あきら)

獨協医科大学 整形外科学教室
主任教授 種市 洋(たねいち ひろし)
准教授 稲見 聡(いなみ さとし)

獨協医科大学埼玉医療センター 第一整形外科
准教授 飯田 尚裕(いいだ たかひろ)

奈良県立医科大学 整形外科教室
講師 重松 英樹(しげまつ ひでき)

新潟大学大学院 医歯学総合研究科 整形外科学分野
講師 渡辺 慶(わたなべ けい)

大阪大学大学院 医学研究科 器官制御外科
講師 海渡 貴司(かいと たかし)

福岡市立こども病院 整形外科
脊椎外科部長 柳田 晴久(やなぎだ はるひさ)

九州大学病院別府病院
准教授 播广谷 勝三(はりまや かつみ)

順天堂大学医学部・大学院 医学研究科 整形外科学講座
准教授 米澤 郁穂(よねざわ いくほ)(研究当時)
助教 佐藤 達哉(さとう たつや)

自治医科大学 整形外科
講師 菅原 亮(すがわら りょう)

東京大学 整形外科学教室
助教 谷口 優樹(たにぐち ゆうき)

金沢大学 医学部 整形外科学教室
准教授 出村 諭(でむら さとる)

防衛医科大学校 整形外科学教室
教授 千葉 一裕(ちば かずひろ)

杏林大学 医学部 整形外科
准教授 細金 直文(ほそがね なおぶみ)

河野整形外科
院長 河野 克己(こうの かつき)

背景

側弯(そくわん)症とは、脊椎が三次元的にねじれて体幹に変形を来す疾患です。神経麻痺や筋ジストロフィーなどの疾患により起きることもありますが、多くの場合は原因が特定できていません。それらは特発性側弯症と呼ばれ、発症時期などにより3タイプに分けられています。そのうち、最も発症頻度が高いのが、10歳以降の主に女児が発症する「思春期特発性側弯症(Adolescent idiopathic scoliosis;AIS)」で、全世界で人口の2~3%に発生します。日本人でも2~3%に見られ、学校保健法により側弯の学校検診が義務付けられています。変形が進行すると、腰痛や背部痛、呼吸障害を起こし、また、容姿の変形から精神面にも悪影響を及ぼします。

近年、多くの疾患に対して低侵襲な治療法が開発されていますが、重度の側弯症には、いまだに侵襲が大きく脊椎の可動性も制限される脊椎矯正固定術しかありません。そのため、AISの原因、病態を解明し、発症、進行の予防・治療法を確立することが待ち望まれています。

AISは、遺伝的因子と環境因子の相互作用により発症する「多因子遺伝病」です。池川チームリーダーと稲葉上級研究員は2009年より、日本側彎症臨床学術研究グループと共にAISの遺伝的因子を同定する研究を続け、遺伝情報と表現型の関連を評価するゲノムワイド関連解析(GWAS)を用いて、AISに関連する疾患感受性遺伝子や遺伝子座を世界に先駆けて報告してきました注1-3)

しかし、これまでに報告した領域だけでは、AISの遺伝的背景を説明するには不十分でした。そこで、追加検体とその臨床情報を収集し、基盤技術開発研究チームの桃沢幸秀チームリーダー、ゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームリーダーらと共に、新たな日本人集団でGWASを行い、合わせて三つの日本人集団におけるGWASを統合し、メタ解析を行うことにしました。

注1)2011年10月24日プレスリリース「思春期特発性側弯症の原因を解明、治療への大きな一歩 -世界で初めて、全ゲノム解析により「LBX1」が疾患感受性遺伝子であることを発見-
注2)2013年5月13日 プレスリリース「思春期特発性側彎症(AIS)発症に関連する遺伝子「GPR126」を発見
注3)2015年7月24日 プレスリリース「思春期特発性側彎症(AIS)発症に関連する遺伝子「BNC2」を発見

研究手法と成果

共同研究グループは、慶應義塾大学医学部整形外科学教室の渡邉航太准教授を中心とする日本を代表する側弯症の専門医集団で構成された日本側彎症臨床学術研究グループによる厳格な診断基準のもとに、これまで6,000例を超える検体とその臨床情報を収集してきました。これは、AISの研究コホートとしては世界最大規模です。

そして、今回新たに収集した日本人集団(AIS患者 3,254人、非患者63,252人)に対して大規模なGWASを行い、さらにこれまでに収集した二つの日本人集団を合わせて、三つの日本人集団(AIS患者 5,327人、非患者73,884人)におけるGWAS結果を統合し、大規模GWASのメタ解析を行いました。その結果、AISの発症に関連する20カ所の疾患感受性領域(遺伝子座)を同定しました。そのうち14カ所は、これまでに報告されていない遺伝子座でした(図1)。

また、同定された20カ所の遺伝子座において、各遺伝子座で関連が見られた20個の代表的な一塩基多型(SNP)についてコンディショナル解析[10]を行ったところ、上記20個のSNPに加え、さらに5個の独立したSNPが見つかりました。次に、AISは女児に多く発症することから、女性AIS患者のみを対象とした層別化解析を行いました。その結果、女性のAIS発症に関連する遺伝子座が3カ所同定されました(表1)。

今回新たに同定された遺伝子座には、AIS発症に関わるSNPなどの遺伝的変異が複数存在しています。このうちの一つである22番染色体上のSNPの rs1978060は、さまざまな器官の形成に重要な役割を果たす転写因子TBX1の遺伝子内に存在し、このSNPを持つ患者に多い対立遺伝子は、FOXA2[11]という転写因子が結合しにくくなり、TBX1遺伝子の発現が低下することが示されました。

次に、AISの遺伝的背景を明らかにするために、ゲノム解析応用研究チームの寺尾知可史チームリーダーらを中心にビッグ・データを用いたヒトの遺伝情報と形質情報の関わりを調べる遺伝統計学的解析を行いました。その結果、AISは肥満の指標であるBMIや尿酸値と負の相関関係にあり(AISは、痩せやすいSNP、尿酸値の低さに関わるSNPと関連している)、共通の遺伝的背景を持つことが分かりました。

また、ロードマップ・エピゲノミクス・プロジェクト[12]により構築された細胞や組織におけるエピゲノム[13]情報を活用し、疾患と相関関係のある組織および細胞種を特定するためのheritability enrichment解析を行いました。その結果、AIS発症に関わる組織や細胞については、心血管系、骨格筋、結合組織/骨、中枢神経系など六つの組織・細胞種が関与することが分かりました(図2)。

今後の期待

今後、今回同定した遺伝子座位に存在する原因遺伝子を特定し、これまで原因が特定できなかったAISの原因解明の突破口を開くことで発症や進行を予測できれば、個人に対応した治療方法、治療方針を確立することができます。

また、海外のAIS研究グループと協力し、GWASの国際共同メタ解析を行い、さらなる遺伝子座位の同定、原因遺伝子の発見を目指します。こうして発見した原因遺伝子の機能解析を行うことで、AISの理解、病態解明がより進展すると期待できます。

原論文情報

  • Ikuyo Kou, Nao Otomo, Kazuki Takeda, Yukihide Momozawa, Hsing-Fang Lu, Michiaki Kubo, Yoichiro Kamatani, Yoji Ogura, Yohei Takahashi, Masahiro Nakajima, Shohei Minami, Koki Uno, Noriaki Kawakami, Manabu Ito, Ikuho Yonezawa, Kei Watanabe, Takashi Kaito, Haruhisa Yanagida, Hiroshi Taneichi, Katsumi Harimaya, Yuki Taniguchi, Hideki Shigematsu, Takahiro Iida, Satoru Demura, Ryo Sugawara, Nobuyuki Fujita, Mitsuru Yagi, Eijiro Okada, Naobumi Hosogane, Katsuki Kono, Masaya Nakamura, Kazuhiro Chiba, Toshiaki Kotani, Tsuyoshi Sakuma, Tsutomu Akazawa, Teppei Suzuki, Kotaro Nishida, Kenichiro Kakutani, Taichi Tsuji, Hideki Sudo, Akira Iwata, Tatsuya Sato, Satoshi Inami, Morio Matsumoto, Chikashi Terao, Kota Watanabe, Shiro Ikegawa, "Genome-wide association study identifies 14 previously unreported susceptibility loci for adolescent idiopathic scoliosis in Japanese", Nature Communications, 10.1038/s41467-019-11596-w

発表者

理化学研究所
生命医科学研究センター 骨関節疾患研究チーム
チームリーダー 池川 志郎(いけがわ しろう)
上級研究員 稲葉 郁代(いなば いくよ)
大学院生リサーチ・アソシエイト 大伴 直央(おおとも なお)
(慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程)

池川 志郎チームリーダー、稲葉(黄)郁代上級研究員、大伴 直央大学院生リサーチ・アソシエイト、髙橋 良枝の写真 (左から)池川 志郎、稲葉(黄)郁代、大伴 直央、髙橋 良枝

報道担当

理化学研究所 広報室 報道担当
Tel: 048-467-9272 / Fax: 048-462-4715
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補足説明

  • 1.ゲノムワイド関連解析(GWAS)
    疾患の感受性遺伝子を見つける方法の一つ。ヒトのゲノム全体を網羅する遺伝子多型を用いて、疾患を持つ群と疾患を持たない群とで、遺伝子多型の頻度に差があるかどうかを統計学的に検定する方法。検定の結果得られた P値(偶然にそのようなことが起こる確率)が低いほど、相関が高いと判定できる。GWASは、Genome-Wide Association Studyの略。
  • 2.メタ解析
    二つ以上の統計解析結果を合わせる際に、それぞれの解析結果のばらつきを補正し、偏りのない合算をする統計学的手法。
  • 3.コホート
    一定期間にわたって観察される同一の性質を持つ集団。コホート研究では、一定期間集団を観察・追跡することにより特定の疾病に関わる共通の因子を検討する。
  • 4.転写因子
    DNAに配列特異的に結合するタンパク質で、プロモーターやエンハンサーといった転写制御領域に結合し、RNAポリメラーゼによる遺伝子の転写を活性化あるいは不活性化する。
  • 5.TBX1
    胚発生中の組織や臓器の形成に重要な役割を果たすT-box転写因子の一つ。 TBX1遺伝子の変異により、先天性の多臓器疾患であるディジョージ症候群を発症することが報告されている。
  • 6.一塩基多型(SNP)
    ヒトゲノムは30億塩基対のDNAからなるが、個々人を比較するとそのうちの0.1%の塩基配列の違いがある。これを遺伝子多型という。遺伝子多型のうち、一つの塩基がほかの塩基に変わるものを、一塩基多型と呼ぶ。SNPはSingle Nucleotide Polymorphismの略。
  • 7.対立遺伝子
    ヒトはそれぞれの遺伝子座について、2個の遺伝子を持っている。このとき、同じ遺伝子座を占める個々の遺伝子を対立遺伝子と呼ぶ。
  • 8.BMI
    ヒトの肥満の程度を示す指標。「BMI = 体重(kg)/身長(m)2」の計算式に基づき体重と身長の関係から算出される。BMIはBody Mass Indexの略。
  • 9.遺伝的背景
    ある疾患や形質に影響を与える遺伝的要因。
  • 10.コンディショナル解析
    相関解析の手法の一つ。あるSNPの相関は、常にそのSNPと連鎖不平衡にあるSNPの影響を受ける。この他のSNPからの影響を排除した相関を調べる方法。
  • 11.FOXA2
    胚発生や組織特異的遺伝子発現に関与する転写因子。脊索形成に重要な転写因子で、肝臓、膵臓、肺などの内胚葉由来の複数の臓器の発生に関与し、これらの臓器において多くの遺伝子発現を調節している。
  • 12.ロードマップ・エピゲノミクス・プロジェクト
    アメリカ国立衛生研究所(NIH)により立ち上げられた国際コンソーシアムにより、ヒトの疾患に関連する様々な組織や細胞種ごとのヒストン修飾やDNAメチル化などのエピゲノム情報を構築、提供している。
  • 13.エピゲノム
    細胞の中にあるゲノムDNAや、DNAが巻き付いているヒストンタンパク質に、後天的に施されるメチル化やアセチル化などの化学修飾。
日本人AISのゲノムワイド関連解析の結果の図

図1 日本人AISのゲノムワイド関連解析の結果

日本人5,327人を検体とした、AISについてのGWASの結果。縦軸はP値の対数値で示した相関の強さ。赤線は統計学的な有意水準(P=5.0×10-8)を示し、それを超える強い相関を示す遺伝子座が20カ所同定された。赤字が新たに発見された遺伝子座で、黒字は既報の遺伝子座である。

女性の解析で特異的にAIS発症と関連が見られた三つのSNPの男女別相関の表

表1 女性の解析で特異的にAIS発症と関連が見られた三つのSNPの男女別相関

オッズ比は相関の大きさ、リスク多型の影響力の指標である。そのリスク多型を持つとAIS発症リスクが、女性ではそれぞれ、上から1.15倍、1.16倍、1.52倍高まる。同じリスク多型に対して男性では、それぞれ上から0.88倍、1.05倍、1.10倍に留まっている。

Heritability enrichment解析の結果の図

図2 Heritability enrichment解析の結果

今回は、組織・細胞種を10グループに分類し、AISとの相関関係を解析した。横軸はP値の対数値で示した相関の強さ。統計学的な有意水準を表す点線(P=5.0×10-3)を超える、六つの組織および細胞腫が同定された。

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